「やっと開いた…」
激しい疲労感と共に容赦のよもない殺人的な責め苦にキラは脱力に苛まれながら、密かにそのウィルスはコーディネーターにおいても優秀であると認められるエリカ・シモンズが情熱を傾け何週間も構想を練りあげ丹精こめて作り上げた芸術品であることはキラは露知らぬところである。

数時間費やし開かれたファイルには、『機密文章』という前提だけあり、手紙のように文体が柔かであるわけでもなく、通常の書類文体とラクスがキラに宛てるには堅苦しいことこの上なかったが無機質に淡々となぞる文章にはエターナル補修、新たなMSを開発するとの決定案が記載されていた。
数字羅列は機体重量、素材、武器仕様に渡るまで詳細に設計図までをも記されている。
そこに兵器を、キラを散々苦しめ命を奪った力の建造が無感情に宣言されていた。

それは未来の危機を予言する皮肉な、平和への祈りを行使するための中立の力。
ラクスは理想を叫ぶが、現実に生きるリアリストである。彼女はこの和平条約自体を恒久の平和を必ずしも約束するものではないと知っているのだ。
キラは新たなる機械人形の生体図を眺めながら思った。彼女は本質的な事実のみをやはりキラに提示したのだ。―――――これから私達の関係をきるも切らないもあなた次第ですわ――――彼女の思惟が流れ込むように理解できる。キラが疎む兵器の製造を、おそらく最もそれを望まぬ彼女率いるクライン派自身が率いる現実を突き付け彼女はキラに問うているのだ。

ここで私と離れますか、どうするのかと。

理由が何であったにせよ兵器開発など喜ばしいことではなく、また兵器を行使する覚悟があると謡おうともそれは決して許されて良いはずもなく。力も、兵器もないに越したことはない。
平和を望むのであれば自らの刄を放棄してこそ、その論も確かに正しい。
しかし大戦で兵器を取らず、祈りを叫んだことで戦争は終わっただろうか?
いや、はかなく人を焼き払う爆音の中で蚊の音ほどでもなかったであろう、彼女の願いなど絵に描いた平和である。ラクスにはザラ議長によりプラントと核を携え刄をむけた地球軍どちらかが滅べば、勝利すれば平和になるという。
だが本当にそうなのだろうか?
うずたかく積まれ天にも届く屍の上で果たしてどちらかが排除の結果本当に心から平和と、子が笑えるのだろうか?ラクスは憎しみの連鎖を断ち切るために立ち上がったがそれはおそらく危うい正義であっただろう。いや、そもそも正義などどこで確定されるのだ?万人が首肯しる思いだけでも、力だけでもという論は現実的にみれば その通りであろうが、悪しき選択なのかもしれない、いやそうであろう。手立てがないからと武力を行使することはテロリズムとも決して無関係ではない。
しかし今やれることを、平和に暮らすために命をなるべくなら無為にせず自由な世界でただ穏やかな日々を…そう望んでもう後戻りのできぬ混迷の時代がいつしか訪れた時どこからともなく現れ、
平和を取り戻すために他に欲なく尽力するだけの力を彼女は思想の陣頭に立ち望んでいる。

あなたが、私と思いを共にするならば――――…キラの決意は躊躇する暇もなかった、即断と形容しても良い。もはや癒しと許しを与えながら守れなかった赤い髪の少女への脆弱で危うい閉鎖的な世界での依存とは異なるにしてもそれは変わらないのかもしれないかもしれなかったが、キラはそれでも構わなかった。

理性も働く現状において戦中の錯覚ではなく今も志はラクスと共にあった。
例えキラが徹底的に兵器を忌避するために彼女を遠ざけようとも、ラクスは構わなかっただろう。
選択の一つでありキラは選択したに過ぎないと、冷酷なまでに決別し、以後付き合いを持とうとも。
おそらくは、それが彼人生のためであり癒しであると言うのならば、ラクスは彼女がどうであれ受容するに違いない。

強い人だ―――キラは彼女をそう、心から思い、憧憬すら抱くほどに。




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