野暮だとは思いながらも詮索衝動に駆られるのは純粋に好奇心と相手がラクスであるからこそ。クライン派はそれぞれ理念に忠誠を誓っているのであり、先導者を崇拝している訳ではないのだが・・・シーゲル、そしてラクス二人の平和思想と滲み出る芯ある志にどうしようもなく兵士関わらず民衆までをも惹き付けるのだ。クライン親子はどちらも温和で兵士に対しても指導者であるからといえ決して偉ぶるでもなく対等である。とはいえ信奉者が多く開戦からは名実ともにクライン派の象徴となっているのは、娘のラクス・クラインが特に顕著だ。適切な采配と人脈、それと信じさせる見かけとは違う強靱な魂に魅了される者も多いだろう。傍らに並ぶものなど彼女には存在しなかった。いや、シーゲル亡き今でも燦然と輝くクライン派指導者たる彼女ほど聡明な彼女が信頼をおくほどの目に適う人物、がというのが適切か。
しかしだからこそダコスタは懸念するのだ―――ラクスという少女へ深い敬意を払う故に。
「キラくんは、我々と同じラクス様の同志、ですよね?」
キラは少し瞠目したが返答はすぐに返った。
「はい」
「それは良かった」ダコスタは安堵して笑った。



*


一方キラは返答に一瞬にでも詰まった自身に驚嘆していた。正直彼女との関係性は曖昧で何とも言い難いものだと思い当たったから。男女とかそういう垣根をどこか、一種超越してしまったようにも感じる。誰にも打ち明けられぬメンデルでのおぞましい出生を知り、そして守らなくてはならなかった少女への強い悔やみにラクスの膝を借りて泣いた。
彼女はいつでもラクス・クラインだったし、今までもまた、そうだった。
どこまでも深い包容と慈愛が、虚勢を全て瓦解させ、魔法のように溶解させていくのだ。僕が生きることを疑問視すればラクスは拙い言葉で僕を肯定した。
あなたがいてくれて、私は幸せになった、と数多の犠牲の上に生きている僕に言ってくれた。どれだけ僕が彼女の一言一言で救われているかと思えば、それはおそらく、きりのないことだ。

ラクスという女性は、本音を包み隠すすべなく吐露できる相手である。
キラに何も求めず、ただ微笑んで傍にいてくれる。
他の誰よりも傍らに居るだけで安らげる、それはなんと称すべき存在なのだろうか。
「彼女とは同志か」と訊ねたダコスタの安堵が色濃いことにラクスが「ラクス・クライン」として親愛されている存在であることを実感して、それはそうだろうと内心頷く。
実際現実に引き戻されれば、ことどれだけ彼女が市民とは別次元に居る人物かということがじわじわと自覚に至っている最中だ。

戦中、エターナル内においても彼女のカリスマ性、とでもいうのだろうか。彼女が未来を一つ口ずさむ度に混沌とした情勢でありながら皆に平和への希望が湧いた。
ただ一人の優しげな風貌の少女がクライン派にとどまらずクルーの意気を統率し、まるでそれは、力強く燃える決意を具現化したかのような燦然と輝く一条の星。
「すごいねぇ、ピンクのお姫さま」
本当にその通りです、ムゥさん。
かつて、と言えるか怪しいくらいあまり時は経っていないが、もう随分と遠い昔のように思えたが・・兄貴分であった陽気な戦友に思いを馳せる。戦死を聞かされた後てあってもキラは嘆く気分にはならなかった。なぜだろう、まるで彼が途切れた、という感覚がないのだ。けれどマリューさんは悲しんでいるだろう、恋人を失った今また。キラの不思議な確信はかくたる根拠もない以上口をつぐみ続けなければならない。苦しみが淡い希望に裏切られる辛さは、少しだけ理解しているつもりでいるから。





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