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「あー…僕、やっと退屈な生活がおわるんですよ」
ベッド上で陰鬱そうに背筋を伸ばして文句たれるキラに、ダコスタは笑いながら見舞いの1品である果物をようやっと台上にのせる。
「キラくんはあんまりこういった経験はないのですか?」<BR>
ラクスの代理として、懐かしい面々らと共に見舞いに訪れていたダコスタは、やけに疲れた様子を見せているのは、先ほどの騒ぎが原因であろう。メンバーは、バルトフェルド、ノイマン、チャンドラ2世、AA、エターナルの整備班…とブルーコスモスが青筋を立てるナチュラル、コーディネーターの垣根を越えた面々である。
同じ病院に入院していた者もいたり(早急に建設したものであるが、それなりの規模である)既に退院した戦友たちは、キラの顔を見るなり頭をこづいたり戦中を回顧したりしていたが、…見舞いという意味合いを次第に外れ、同窓会のようであったなあとキラは参加したことはないが、そうぼんやり感じる。政治情勢や今後を一しきり語った後、幾分か話し疲れたキラへと各人がまた一言づつ投げた後。
二次会だなんだと昼からバーへと肩を組んで男女問わず仲良さそうにくりだしていった。

嵐の後の閑散とした室内に、しばし呆然としていたキラであったが残留した一人もいたらしい…
喧騒に巻き込まれ用事すら言付けられていなかったダコスタはなんとか理由をつけて居残り、現在にいたる。
ダコスタは白状者だのなんだのといわれもなく罵倒されたので、やけに疲弊しているのだ。
「はい。あとはこれ。ケーキ」
「ありがとうございます」
今更ながら差し出されたケーキの箱に苦笑いで受け取る。
台風一家は差し入れとしてベッドの足元には果物やら雑誌やら菓子、ゲーム、果ては暇潰しにと映画ソフトまでありとあらゆる物を置いていった。
キラには一応カレッジから課題が出ているので端末やらテキストを左右するうちにいつの間にか夕暮れ時、というのが大概のパターンであるが、
正直、すぐ面倒がるのもキラである。休み(というかさぼり)には最適だろう。感謝感謝である。
「キラくんはまたカレッジに入りなおしたんでしたっけ?」
「ええ、そうです。僕途中で戦争に入っちゃったんで……」
「でも、キラくん勉強はあんまりやりがいがないんじゃないですか?砂漠で見せられた技術には驚きましたよ」
「…でもあれ、あんま覚えてないんですよ。もう無我夢中でしたから」
かつて敵であり、命を奪い合った相手だというのに日常会話として懐かしく笑みをはえて交す今が不思議で、奇跡のようだった。
ダコスタも同意見であったようで変な顔をしていた。口には出さなかったが、多分僕も似たような惚け面を晒していたに違いない。

「火事場の……てやつですか。あれ、じゃあ今はどうなんですか?」
「まあ、あの時ほどではないですけど、続いてる感じです。少し」
「秘めたる才能が芽吹いたってやつかな?僕は隊長にこそ秘めたるまともな味覚に顕現してほしいものですがねー」
「はははっ!」確かにバルドフェルドさんのコーヒーは一度飲んだ覚えがあるが凄まじい苦みと共によく分からない渋みがしたなぁと思い出す。
どうやら多種類を絶妙にブレンド(誰にもそれは分からないほど大雑把だそうだが)しているらしく、
「ブレンド前のコーヒーそれぞれを味わってみたいものですよ」という彼の意見あまりの切実さに後押されて頷いてしまう。脇に積まれた専門書とテキストの山に目をやると、ダコスタは苦い顔をした。
「僕もカレッジ卒だけど、プログラムとかは苦手だったなぁ……あ、そういや確かラクス様も卒業されているはずですよ」
初耳だ。キラはラクスと自らが得意とするプログラミングがどうしても結び付かず、へえと上ずり気味の間の抜けた相槌を打った。
ダコスタは意外そうな顔をするので、キラは不思議に思う。
「もしかして、知らなかったんですか?」
「…はい。それが?」
彼はますます怪訝に表情を歪めたが、「いえ」と返してとりあえず先に話を進める。
エターナルで見かけた二人は作戦会議でブリッジに集結していたた際通信画面越しにではあるがいつも隣り合っていたし、様子を窺う限りでも親密そうでもあった。ザラ議長の子息との婚姻についてはシーゲル様がどうやら二人は友人で終わりそうだと漏れ聞いていたし、親友、同志、なのだろうか?






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