―――――数ヶ月前、大戦終了後



戦争が終わり、元よりオーブ市民であった僕は自宅に戻るよりまず一番に病院に入れられた。
機体の損傷は「壮絶」の言葉に尽きるものであったもののMS乗りであるキラの肉体は打撲程度でさほど深刻ではないから、と
入院を辞退したのだが両親や周囲からの強い勧めで半ば強制で収容されたのは、きっとラクスとエターナルで再会した時倒れてしまったから
であろう事は想像がつく。
とはいえ、パイロットは大方検査を受けるために一時的に入院していた為、見舞いには母やラクス、AAからの面子のみと割合落ち着いた入院生活となっていた。
1週間が経過した頃、クライン派筆頭として多忙なラクスが合間をぬって病室に顔を見せていた。
昼食前にひょっこり一人で姿を見せたラクスにキラは驚いたものだが、ぐるぐると護衛を見回してもお付の一人も添わないことに
微かな嬉しさと違和感を感じ疑問を口に出してみたものの、やんわりと話のテンポに流され聞きあぐねたまま現在へと至っていた。
キラは看護士が替えてくれたばかり、真白の清潔なベッドのリクライニングで上体を起こし、暇そうに
両親が持ち込んだ積み重ねられた雑誌やら別のカレッジのテキストやらを開いてはいるものの、
戦中に開花した能力が、疲労が、それをつまらなく見せるのだろうか。視線は常にラクスと窓からみえる空に集中している。
「キラ。ご気分はいかがですか?」
「もう大分いいよ。打撲も完治したし、いつ退院してもいいんじゃないかな」
萎れかけの白い花から、薄紅のバラに生け替える彼女はまるで僕との会話のテンポに調和するように緩やかで、なんともなしに見つめてしまう。
別段目新しい所作でもないだろうに、けれど僕ではきっとああ滑らかにはいかない。母とも違う。
酷く女の子の仕草なのだとキラ自覚が至る。指先から滴り落ちる雫は潤沢さを陽光に透かし輝いている。
他愛なく墜落しかける真実にキラは唇を噛むことでやり過ごした。多少苦みが口内を襲う。
「きれいだね、花」
「ええ。カガリさんから頂いたものですわ」
「カガリとアスランから?」
オーブ国爆破により著しい損害を被った為に、今は代表となったカガリが父の後を継ぎ現代表として奮闘しているはずである。
復興は持ち前の技術力と経済力で急ピッチで進行していると報道番組で目にしたし、
目も回るような忙しさなの只中なのだろうなあとは暢気すぎるベッド上の身ながらも安易に想像がついた。
「マーナさんが届けてくださいましたのよ。 カガリさん、寝る間も惜しんで書類を片付けたり被害視察に赴かれたり、お忙しいようですわ」
「だろうね」
苦笑を返す。



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