たべものをなかよくわけようと、あるいきものがうったえましたが、あるひとつのいきものがなかよしのたべものをうばいました。
するとうばわれたいきものはうばいかえそうとうばったものにかみつきました。
ふたりはぐるぐるぐるぐるじめんをころがって、たべものをうばいあっています。
それをみていたおなかをすかせたまたひとりのいきものが、ほかのいきもののたべものをうばいました。
れんさしてれんさして、ついにはなかよくわけようとうったえていたいきものまでたべものをうばいはじめてしまいます。
さいしょにうばいあったふたりは、どちらもしんでしまいました。
ちゅうとはんぱにくいちぎられたままのこされたたべものにいきものたちがむらがり、またぐるぐるぐるぐるじめんをころがっていきます。





// D N A

- 3 







陽光の中、ベッドで眠る彼女はまるでお伽話の眠り姫のように美しい。
キラは目元に微かに残る涙を拭ってやると、そのまま頬に手を滑らせた。
柔らかい感触に安堵するも、やはり顔色は悪く、話し終わった後「気分が悪い」と訴えて倒れるように真昼の日差し差し込むソファで眠り込んでしまったラクスを抱き起こし、彼女のベッドまで運んできてからずっとキラは最低限の所用を済ませてからは、彼女の傍を離れようとはしなかった。

薄いカーテンは眩い光を緩衝剤の役目を果たし、寝室にはひたすら穏やかな太陽が降り注いでいる。
ベッドにラクスを寝かせ、カーテンを閉めようとしたキラは、そこでふいに思いついた。
もしかして彼女は暗闇が嫌で、あんなに明るい真昼の元に眠りに落ちたのではなかったのかと。
キラは少しの間微動だにせず固まってから、カーテンを閉めようとして握った布を手放した。
暗がりを晴らすには光が必要だ。確信も何もなかったが、なんとなくそう決めつけた。
手持ち無沙汰にめくれてもずれてもいない掛け布団を少し上にまで被せるが、なんだかか細い体躯が埋もれて苦しそうに感じたので、すぐ元の位置にまで引き下げた。
何を甲斐のないことをやってるんだと罰の悪そうに一人頭を掻くキラ。

しかしだ。キラは外から彼女へと目線を戻す。
白すぎるシーツは、こんなにも穏やかな陽光の元にあっても、いやあるからこそ尚、そこで目を伏せる人間をこんなにも痛々しく見せるものだろうかと不愉快になる。
安らかであって欲しいと運んだけれど、やはり彼女には真っ白のベッドの上よりも、子供たちと並んでぽかぽかとした日なたで眠ってしまう姿のほうがよく似合う。

「平和ボケ、かな……」
あまりにも思考が子供じみていて、多少気恥ずかしくなる。
大戦時にはおおよそ考え及ばなかった。
まさか自分が彼女と共に地球で、こんなにも晴れやかな気持ちで質素ながら静かさに満たされた生活を 過ごせるなど。
MSに搭乗する間、アークエンジェルでの日々、緊張に命を削る戦闘。
終わりの見通せぬ暗中模索の連続とはかけ離れた、夢のような。
紫の瞳を苦渋色に染めた。
時折、キラは物足りなさを感じるのだ。
ラクスには無論口にしたことはないが、勘の良い彼女は薄々察していることだろう。
緊張が欲しい。あの頃の、あの心地の良い昂揚感は今の生活では得られない。
そういう時キラは決まって自己嫌悪に苛まれる。
混沌の時代には決して戻りたいとも思わないし、現状を幸福だと素直に胸を晴れるが、 無意識に割り切れない部分というものが2年を過ぎてなおやはりどこか残痕を残しているのだと確信すると同時に、 何度禁じても同じ考えに至る自分に嫌気がさす。
自身ではどうしようもない負い目がある。
数多の犠牲の元で存在し得た最高のコーディネーター、その因縁が攻撃的欲求に走らせるのかと。
ラクスは「致し方のないことだ」と微笑を返してくれるだろうが、そこまで甘えたくはないし、彼女の瞳が悲しみに翳る様なことだけはしてはいけない。
虚勢を張る必要はないが、これだけは自戒していた。
「情けないな」
失笑しようとして、見事失敗した。
筋が引きつって上手く笑えない。酷く情けなくなってキラはうなだれた。

二年で彼女も自分も周りの人々も随分と様変わりした。
とても長いようで、一瞬のような、一生の様な二年。
写真立てに飾られたアスラン、カガリ、ミリアリア、そして思いを交えた多くの人々を見つめる。
やっと手に入れた平和を、このままゆっくり積み重ねていければいい。
大戦を終えて、多くのものをなくし、得た戦場から学んだ、キラのただただ一つの願いだった。

「………キ、ラ…」
「ん、何?」
反射的に返答するもどうやら瞬間的な会話だったようで、ラクスはそれきりすうすうと寝息を立てている。
陽光が気を紛らわせたのか、顔色は少しなりとも改善していてほっと一息ついた。
「ん〜……」
ごろんと寝返りをうって目にかかった髪を微笑交じりに払いのけてやっていると、訪問者を告げる高いベルが鳴った。
目覚めてしまいやしないかとはらはらラクスを窺うも、どうやら加減は良かったようで幸いにもそのまま眠りに落ちている。
部屋を出る際にも足音や扉を閉める音などにも気を払いながら、短い廊下を抜けて玄関へと出向いた。
一見こじんまりとした邸宅に纏められているものの、
実質そこらの要人施設にも勝るセキュリティーの兼備しているのは外部からの強い勧めがあったからだ。
壁に設置された端末越しの訪問者を目にとめるやいなや、
「………っ!?」
キラの顔色がみるみる変わる。
目を見開き驚愕に染まる色はしかし、僅かな違和感を肌に感じ取っている。
脳裏では恐ろしい考えが過ぎる。
瞬間的に滲み出した冷や汗が、背骨を一筋、つうと気持ち悪く伝った。

『……初めまして。キラ様』
機械越しのノイズの混ざった声は、耳馴染みのある甘やかながら凛と通る声。
星型の髪飾りをさした少女は、淡い陽光の中、綺麗な桃色の長い髪を微風に揺らした。
「君、は」
喉がカラカラに乾燥して言葉を発するにも喉骨に引っかかり上手く紡ぎ出せない。

『少し、お話はできますか?』
ラクスと瓜二つ―――いや、纏う空気は酷似しているものの、どことは言葉にできぬものの微妙な、それこそ天文学的な世界の差異だろう。
少女は、端末の中で春風の如くにっこり笑った。
ラクスその人がキラに、おはようございますとでも挨拶を交わされたかのような錯覚に陥る。








next