ハウルは懐かしい匂いが一杯に詰め込まれた空間に射し込む淡い朝日で、ふっと目を覚ました。
手元にあるはずの紫と白、まだらのぬいぐるみを探して手慰みに目を閉じたまま
ぱたぱたと気だるげにシーツ上を手を這わせていると、
「……………ん?」
ぐにゃりと柔らかな何かを掴む。
なんだこれは。もう一度仕草を繰り返して見ると更にスポンジに指が包み込まれていく感覚。
ハウルは訝しげにようやっと瞼を開けて、
「あ」
眼前の事態の深刻さに気付き、ほんのり赤く頬を染める。
昇り始めたばかりの陽光をレース生地のフィルターが緩衝材となり、部屋へと届けられた繊細な光を肩から背を惜しげもなく露出されたソフィーの淡雪の肌を滑り落ち、ハウルは半分ほどはだけたなだらかな双丘を鷲づかみにしていたのだ。
「うわ……やっぱ柔らかい」
さんざん昨夜味を占めておいて今更な台詞だったが、夜と朝とでは気分も雰囲気も全く違うのだ。
すうすうと隣で小さく寝息をたてるソフィーは普段見せぬ夜の艶とはまたうって変わり、星色に染まった肩ほどまでの髪をシーツに広げて目を閉じている姿は、
(………かわいすぎる)
天使のように清純で、愛らしい。
紳士としてはアクシデントを(故意ではない)抹殺するために手を今すぐ離してやるべきだろう。
だが男としては、本音としては非常に辛い決断である。
躊躇と懊悩の合間にちゃっかりと指を動かしているのは、理性とはかけ離れた本能で、やはり断続的に続けて与えられる心地よさと微かな幸福感は如何ともしようがない。
本能に走れば走るほどソフィーの匂いはそこはかとなく鼻腔に強く香ってくるし、気持ちがいいし、実際今まで数多く付き合ってきた女性の中で求愛しては興味がつき、求愛しては…とひたすら同一のエンディングを辿ってきたハウルが幼少時代―――星の子と契約を交わしたときに出会って、何年も待望した少女と晴れて恋におち、狂おしいほどに愛している彼女だ。
愛情に際限などないように、また沸々とハウルを揺さぶる劣情にもまた止め処ない。
燻る炎が再び瞳の奥へとぽっと蔭った。
「………ソフィー」
ハウルはそっと耳傍で囁くと、頬から彼女にも良く賞賛される女性のような長く繊細な指をつうと首筋まで滑らせる。
「………っん……」
くすぐったいのか笑みを形作って身じろぎをするソフィーにふっと微笑みながら、
ハウルは首筋に点々と撒き散らされた赤い残痕を一つずつ、一つずつ、赤い舌でちろり、ちろりと
舐めていく。
「んー?」
異変に気付いたのか、よりはっきりとした逃れように、ハウルは不敵に笑みを浮かべて言った。
「さぁ、ソフィー。耐久レースだ。君が目覚めたら、自動的に僕の勝ち」
いいね?と自分勝手にさも当然だとばかりに言い捨てると、ハウルは手を指を唇をと、行動を加速させていく。
ソフィーの閉ざされた瞼はハウルからの執拗な快進撃にびくびくと痙攣し始め、ついに跳ねるように目を覚ました。
「……やぁ!?ハ、ハウル!なにやっ………んん」
突然唇を塞がれて、ソフィーは恐慌状態に陥る。
「んっ……や、む」
長い長い、もう何秒、いや何分だろう。
それほど長く、深いキスの洗礼を起床と同時に受けたソフィーはすっかり瞳をとろんとさせている。
ハウルも息を荒くしながら、よもや思考一点しか眼中にない盲目的な激しい嵐の中で、精一杯に言葉を紡ぎだした。
「……もうダメ。…………限界だよソフィー」
悲哀をたたえた表情で息も触れる至近距離で切なげに揺れる瞳と端正な顔にソフィーは驚きながらも、我が物顔で肌を滑る意地の悪い手に体を強張らせる。
「何、が………っやぁ!?」
「いいでしょ、ソフィー?…ていうか僕がもう、ムリ」
「ええ!?」

訳の変わらぬままハウルにがばりと押し倒されたソフィーは、目を白黒させながら純白のベッドの海へとハウルと共に沈んでいった。

しかしながら、合間ソフィーの見せる恥じらいの笑顔は結構幸せそうであったりした、という話である。








fin./君に捧げる愛の唄