*「結」を踏まえての続編です。未読の方はそちらを先にどうぞ。











「絶対ロクでもないよ」
ハウルが空を飛ぶ城の傍をひらひらと舞う封書を目にしたなり呟いた言葉だ。
ソフィーは洗濯物を両手一杯に抱えながら、ハウルが心底嫌そうな顔で手をすいと空に薙ぎ、
あっちにいけと魔法を行使させた(に違いないきっと)に関わらず、物ともせず手元へ擦り寄ってくる白い物に一層険を潜める。
「ハウル…あれってもしかして魔法、よね」
「もしかしなくても魔法だよ。それもイっヤーなことにかっなーり強い魔法さ」
舌でも出しそうなほどわざわざ低いアクセントをつけるハウルにソフィーは子供っぽいと少し笑っていると、
「あ」
……魔法?
「そうだよソフィー!あれで手放してはくれないらしい…どうせロクでもないことさ!」
「あの、やっぱりハウルの先生っていう?」
「サリマン先生だろうね!」
がりがりと神経質に頭を掻きながらソフィーから洗濯物を掬い取ると荒く足を踏み鳴らして城に引き込んでしまった。
「なにかしら?」
とりあえず和解はした、みたいなことはお風呂で話していたけれど。
首を傾げながらはた、と荷物がなくなっていることに今更に気がついた。
なんとなくそのまま腕を広げたポーズを取ってみて、改めて軽さを実感すると、なんだか、なぜだか可笑しくて顔をにんまりさせてしまった。
「ソフィー?なににこにこしてるの?」
「ええ!?」
いつの間にかひょっこりマルクルがソフィーの足元で見上げていた。
驚いて後じ去るソフィー。
「な、なんでもないわ!」
「そうなの?」純粋そのものの子供の瞳は酷くソフィーを嘘つきへの嫌悪を深めさせて、けれど知られても恥ずかしくて。
「そうよ!さ、マルクル。洗濯物を畳んだらしまわなきゃならないのよ。部屋、片付けておきなさいね?」
「わ!だめだよソフィー!自分でするから!ダメダメ!!」
「はいはい」
くすくす笑いながら少し屈んでマルクルの小さな背中を押して歩かせてソフィーはこれで気も紛れて、今きっと赤い顔も冷めればいいわと後ろ側にある空を一瞥して、その青さに、ちょっとは赤色を持っていってちょうだいとむくれてしまった。








「うわあ!なんてことだ!!」
絶叫する声が上から柱を揺るがす。
暖炉傍でカルシファーを話し相手にマルクルと洗濯物を畳んでいたソフィーはあまりの地鳴りに思わず目を瞑ってしまったほど。
「ソフィー!ソフィー!!」
子供が駆け遊ぶような騒がしい音が天井をかき鳴らしてソフィーが何か言おうと片目を閉じたまま口を開けたところで、ぱたりと止む。
なんだか煩がって割には意外な幕切れに拍子抜けしてしまって、ソフィーはそろそろと目を開ける。
「……………ハウル?」
「なんだったんだハウルのやつ」
薪を取りながら白い目をきょろりと上方へ向ける。
「お師匠様さっきあの手紙机の上でつついたりしてたよ?」
「あきれた!まだ読んでなかったのね」嘆息するソフィー。
「オイラも手紙もって青い顔してるあいつ見たぞ。でも手紙からは変な気配はなかったぜ」
「じゃあただの手紙ってことじゃない!」
強力な力を持った火の悪魔であるカルシファーがもはや嘘をついたりハウルを貶めようなどと
言う気が全くないことはよく理解していたので、ソフィーはすぐに結果出した。
それにしてもこの不気味な静けさはなんだろう。
首を伸ばして階段を窺ってみると、階上で静かに扉の開閉音が執り行なわれ、静かに階段を下りてくるハウル。
ソフィーはなんともなしな嫌な予感を満面にたたえて近づいてくるハウルに、なんとなく身体を仰け反らせる。
弱虫の彼らしくドロドロに解けたり可哀想な顔をしていたりしていることはないが、ただ一つ、違和感を持たせたのは――――ハウルが頭を垂れていることだけ。
それだけなのだが…不気味だ。
「は、ハウル?」
「おいおい足音すらしてねえぜ」
「お師匠様、フラフラしてますけどだ、大丈夫ですか」
見事にうろたえる面々。無音で振り子時計のように左右に触れて近づくハウル。
おばあちゃんでもいれば的確な一撃を加えてくれでもするのだろうが、残念ながらこの場には居ない。しかし真っ直ぐにソフィーめがけてやって来たハウルは、緩慢に顔を上げた。
「…ソフィー」
「ハウル。どうし、たの?」
顔が青さを通り越して白磁、長い手足、端正な顔つきながら情けなく眉が垂れているので
どことなくしょんぼりとした上等な猫のようだ。足取りはまだ止まない。
「ちょちょっと!ハウル」
息が触れる距離にまで顔を近づけてきたハウルに頬を赤くすると、覇気が失われていた青い瞳が勢いづいて見開かれた。
「王室のパーティーに招待されたんだ。ロクでもないことに王様直々だし!
なに吹き込んだんだかサリマン先生は!大体もう明日なんだ急すぎだよ!!ほんと……前あんだけ失礼なことしたし王様レベルまでくると断れないし〜…」
とソフィーの肩に顎をかけるも、そのまま力なく滑り落ちて椅子に座るソフィーの柔らかな膝に頭を載せた。








/時間を止めて、 崩れ落ちる足元



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ええと、…「結」を踏まえての続編であり、実は「浅ましい僕」の解明編・その1です。
ややこしくてすみません。
しかし今回、やることを5つまとめてみたんですが、予定の1つめしか終わりませんでした!(笑)
基本ハウルは溶けててもおかしくもないのですが、あんまりにも定番なのでたまには
ソフィーに甘えて(笑)でちゃっかりおいしい展開でひっついてもらいました。
前回までの更新が結構切ない物ばかりだったので、今回くらいはと思いまして。
結構久々のハウル(といっても5日ぶり?)だったのですが、やはり書いていないとやたら時間がかかるものですね。ドラマ見つつというのがまずどうなのという感じですが。


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