「将臣くーん。元気ー?」
ベッドに寝転がったまま、長い髪をシーツに広げた幼馴染は、片手をあげた。
んだよ。んなことで勝手に部屋入ってくんなよ、もうそんなことしていい歳じゃねーだろ、なんてことは言わない。相手が身近にありすぎた望美でない、ただの女子高生なら間違いなく漏らしただろう言葉ではあったが。
「おう、望美。先帰ってたのか?」
「うん。部活入ってないし、バイトしてないし」
「俺これからバイトだぞ」
「いいよー。ちょっと覗きにきただけだから」
「…は?何を。俺の着替えをか?」
将臣が身に着けたままの制服を指差して茶化すと、望美は笑って、そんなわけないでしょ!と一蹴した。
「暇だから来ただけだよ。あと、譲くんへのお礼って、お母さんからケーキ預かってきたの、渡しに来たんだよ」
「あー。母さんいねーもんな今。俺預かっとくぞ」
「いいや。もうキッチンにメモと一緒においてきちゃったから」
いいながら、素足をぱたぱたさせる望美は、ドアの傍に立つ将臣に背を向けた格好で寝転がり、顔だけはこちらを向いているといった体勢である。
望美も制服のまま。靴下は一応ベッドに上がるからと遠慮して脱いではいるが、脱いだ靴下は床に放置している。

ぱたぱた。
短いスカートで気にせずぱたぱた、を続ける望美。
…このやろう。
非常に、消極的にだが、将臣は内心で毒づいた。
当たり前のデリカシー。しかし二人には、真面目に存在してはならないもの。

望美は、一応用件をつげてすっきりしたのか、勝手に将臣の部屋から拝借した、地域情報雑誌に目をむけ、完全に将臣から意識を外した。
「ふうん…」
適当に返事をしてなんでもないふりを装いながらも、目は際どい大腿部へと吸い寄せられていた。
膝裏の節から白い大腿部へと続く柔らかそうな曲線を辿る。性か、辿ってしまう。辿らざるおえない。
下着はギリギリみえていないが、寝転がってまくりあがったスカート丈が更に短くなったせいで、双山に続く付け根あたりがちらちらと垣間見える。

将臣は、ここで本来ならば、望美に幼馴染セクハラをしかけなければならなかった。
「おーい。みえるぞーのぞみさーん」とか「バーカ」とか、とにかく真面目でない、路線で。
しかし困ったことに、視線が剥がれないのだ。
むしろみえちまえとさえ思う。
しかしそうはならなくとも、勝手に頭がみえている光景を想像している。
いやらしい皺とか丸みとかそういう、細かいところまで。
視線を上にやると、白ブラウス姿の望美の背には下着の線がはっきり浮き出ていた。
性別を気にせず接していられた幼馴染は、彼にとって、既に一人の女として認識されていた。
望美はそうではない、まだ違うと断言できる。彼女は性別とかあまり気にしていない。だから男のベッドの上に平気で寝そべることが出来る。

将臣には、思うままに行動すればどういう行為に自分が出るかまでよく理解していた。だから、歯止めの効かなくなる前にそこで思考を強制終了させた。
これ以上はだめだ。

将臣は後ろ手でドアを閉めつつ、上着を望美の頭にわざと脱ぎ捨てた。
短い悲鳴のあと、望美はこちらに身をひねって睨んだ。
「なにするのよ!?」
「このバカ!」
「はあ!?」
「だからお前は彼氏できねーんだよ!バカ!」
「なにいってんのよいきなり!」








fin.

大変ですね