望美達一行は、熊野別当に援軍を請うために熊野へ向かっていた。 その途というのは大変なものである。 山道の連続で、急な斜面が延々と続く。 何度か運命を上書きした望美は同じ道を行き来していて、それなりに慣れてもよかろう頃だろうに、なまじの体力ではこの山道には通用しないらしい。毎回毎回熊野道には泣かされ、やはり例に漏れず今回も望美は疲労に追い詰められていた。 鉛が脹脛・腿に圧し掛かっているように重く、おまけに脚に痛みまである。汗を額に滲ませながら、軽やかな足取りで先を行く八葉をみつめる。 現代人である望美に、移動には強制的に徒歩を要するためについた彼らの体力についていくことは酷である。譲や将臣も現代組だが、将臣はもはや現代組というにはこの世界の水に慣れきっていたし、譲は弓道部で厳しい鍛錬を元々積んでいるそれなりの猛者である上に、男であった。 性別云々で論じたくはなかったが、やはりこういう時に性別がもたらす不条理を感じずにはいられなかった。 (私も男に生まれたら、もうちょっとは楽にいけたのかな…) 昔から、男二人と共に遊んでいた望美である。スカートを身に着けて遊ぶ自分に、少しだけ嫌気がさしていたり、ちょっとしたごっこをやっても、いつもお姫様やか弱い役しかやらせてもらえなかった時には、何度も男になりたい、男になりたかったと詮無く考えたものである。 このとき、まだ体格の小さな白龍も辛そうにしていたのだが、へばっていたため無意識に羨望が彼を度外視させていた。 俯いて歩く望美は、降ってきた涼しげな声にむっとしながら顔をあげた。 「大丈夫ですか。望美さん」 いらだっている時に声をかけられれば大半はその態度のまま、人に接してしまう。 「……えーと…」 おまけに判断力が鈍くなっているらしく、誰だっけこのひと。 望美は、動かない頭に思い浮かんでは消える様々な名前と、今見つめている容貌をわざわざ一致させなければならなかった。 「おやおや…」 飛ばした不機嫌の靄に感づいたらしく、苦笑する弁慶に、望美は しまったと思い、「すみません」と慌てて謝罪した。 「気にしませんよ。疲れている時に話しかけた僕にも責があります。もう少し、落ち着いた時に声をかければよかったですね」 「そんなことないです。…あの、なんですか?」 我に返った望美は、なぜだか熱をもつ頬をぱたぱた手で扇ぎ、冷やしながら訊ねる。 綺麗な男の人だからきっとこんなに緊張するんだろうな、と毎度結論付けているが、綺麗な男だらけの中にあって、弁慶以外に緊張しないという矛盾にはまだ行き当たらない望美である。 「このあたりで休憩をとりましょうか?顔色があまりすぐれませんよ」 ふいうちに伸びてきた手が、そっと望美の頬に触れた。 手のひらの硬く温かい、大きな感触に、望美は驚いて触れる手を凝視してしまう。 …なんとも可愛らしい人だな。 弁慶は望美の仕草から、彼女の心内が手に取るように読めてしまって、というか、一目瞭然といった彼女の動揺に触れて、笑みを零した。 不純すぎる自分には、こんな素直な反応、たとえ意識して行っても難しい。 fin. 半端すぎます |