「Be silent」



それはうららかな春の日。
うぐいすが風流を醸し出し、云々かんぬんとそれはそれは涼やかな下り、色鮮やかな光景。

・・・・で実際あったならば、こうも汗だらだらで肌に張り付いて気持ちの悪いシャツを肘、関節あたりにまでまくりあげ、ぐいぐいと侵入する日射光にほだされたこうも喉越しの悪いアイスコーヒーをあおいでいたりはしないと思う。

「暑いな今日は・・だから田舎は嫌なんだ。ハボック辺りは慣れっこなんだろうが、私にはどうにも合わないないくらたっても」
「気候に文句を言われましても。それに少尉には些か失礼かと」
「いいんだいいんだ。上司の特権だ。これがなくて面白みもないデスクワークなどやっていられるか」
「上官になればなるほどデスクワークだと思われますが・・・」
「それは私が改正するから問題はない」
「大佐は椅子に座る時間もお嫌いのようですね」
「まあ好きではないな。座り心地だけは抜群なんだが」
「子供の口ぶりですね」
「はっはっは、若いからな」
「・・・・・・・」

傍らに付き添うリザはあえてコメントを避けたのか馬鹿馬鹿しいとすぐに話題を脳内から追いやったのか、しばし口を閉じて額の玉汗を拭う。
セントラルからやってくる要職の視察準備と大佐階級であるロイのスケジュール調整のため、書類とにらめっこしながら外聞顧みず暑い暑いとのたまう上司と同様、こちらもまた気温に対する不愉快さは例外なく、涼しげな顔でしかしひたりと汗を滲ませていた。

「・・・セントラルはまだ涼しいのでしょうけど、ここはいけませんね」
「いけないどころじゃない。これでは干からびるぞ夏になれば」
「困ります。まだまだ予定が詰まっていますから」
「私には黄泉に行ってからしか自由がないのか?」
「ないですね」
「即答だな」
「余地がありませんから」
「ああ、でも老後があるじゃないか」
「・・・・それはご自由に」
「君はそこにはいたりはしないのかね?」
彼女の様子をロイはちろりと横目に窺った。 今のところは黙り込んでしまったのみ、他にさして動揺といった動揺も認められない。
なんともつまらない。

一方のリザは、彼からの悲哀をたたえた視線を感じつつも、 当人曰く、実年齢よりも若く見られるロイの童顔が機嫌を損ねると更に子供っぽさを加速させる容貌 を密かに好きだと思いつつも、緩む口元をひた隠し、少し思いあぐねるような素振りを演じてみせる。
「・・・スープ」
「は?」
「そうですね。私が祖母から昔教わったスープ料理があるのですが、それが美味しく作れるようになりましたら、またお話しください」
「なんだそれは」
「・・・・・」


ともかく黙りなさいという事か。
ロイは肩を落として、今夜この愛しくて苦しくて病まない女狐をどう誘惑してやろうかとその日中趣向を考えることに余念がない。
彼はその邪な思考こそ黙れと言外に告げられていることに当人は気付いてはいない。






fin.




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多少煽ってやると思いついたように更新します。
単にSSS用自作お題「だまれ」の長い版なのですが、とにかく今回は
会話文を多めに入れようと頑張りました。
まるで甘くないのがイタい。
だって「だまれ」がお題って・・・・縛りとか拘束とかそんな物騒な単語しか思い浮かばないよ他には。

多分そんでもって大佐は誘えないんでしょう。仕事がおろそかになって。
おいたわしや。(リザが)