「郷愁」




「君が昔言った事が思い出されるよ」
「・・何がですか」

リザは訊ねながらも思い当たる節があったのだろう、珍しくリザは頬を染めてまっ白い羽枕にぽふりと顔を埋める。
表情を気取られたくはないらしい。
ロイは彼女のふいに見せる愛らしさに隠れてふっと微笑んだ。
「君は言ったね。確か、そう。テロ事件で、初仕事の女の子に言ったんだったかなあれは」
「いいじゃないですか。分かりやすくて」
「まあね。直接的過ぎて思わず笑えたよ」

初めから任務にも書類仕事にも上司扱いにも手馴れた人間などいない。
軍部にもいつ何時、いかなる時代にあろうともルーキーというものはこの世に、また軍部にも例外なく存在するものであり、またそれが年数と経験を経ることによりベテランへと成長していくのだ。

あるまだうら若い女性が、初仕事でテロ活動組織への突入に参加し、
抵抗したある一人の男に迂闊にも人質に我が身をとられてしまうという失態が起こった。

「いや、いやぁ!放して!」
「っるせえ!こっちにこい!」
太い腕で細い首をしめられ、目の前でナイフをちらつかされた彼女は怯み、脅える女性に射撃体勢を構える緊迫のシーンで、リザは眉根をつりあげて叫んだのだ。
触られるのが嫌なら、とっととぶんなぐりなさい、と。
「あれで殴り倒した女の子もさすがだったけどね」
「振り払いたいものは振り払えばいいんです。ただ彼女は勇気がなかった。だから私は勇気を思い出させただけです」
「ぶんなぐりなさい、で?」
「ええ」

リザはどことなく不機嫌そうにシーツに人差し指でぐるぐると円を描きはじめる。 ロイは可笑しげにその様子をしばらく見つめると、綴られた痕とは反対方向にリザと同じように弧線を描き、罰悪く鉢合ったリザの指を絡め取り、ロイは口付けた。

「勇敢な君に、乾杯」

ロイはふいに完敗じゃなかろうかとちらりと思わなくもなかったが、言うと命がなくなりそうだったので口を噤んだ。





fin.