どうしてこうも同じ台詞を、どいつもこいつも思いつくのだろう。
ロイは陰鬱に首を揺らせる。
毎度思うのだが、文句にもユーモアとバリエーションが必要だ。
たまに笑えでもすればまだ読み手側としても飽きがこないのに。

ロイは紙束の前で実にくだらないことを、真剣な面持ちで熟慮していた。






「joker」





人々の噂が作り出した仮想空間の中。
その一言で、ロイ・マスタングの苦悩は始りのゴングを告げた。




「大佐、お届けものっスよ!」

出戻ってきたハボックが執務室にふらりと立ち寄り、分厚い封書をさっそく 普段散々こき使わってくる仕返し、とばかりに上司の前でひらひらさせた。
鬱憤を晴らす彼は実に嬉しそうであり、まさしく彼の会心の笑顔であった。
一方の大佐が渋面なのはその内容が知れているからだろう、が、ロイは一応訊ねてくる。
万に一つの可能性もないだろうと絶望しながらも健気に。


「・・・・・女性からか?」
「まさか!」
「その『!』をせめて付けるのをやめてくれないか。余計に気が滅入る」
ロイは盛大に溜息をついてから、部下に文句をつけた。
異様に嬉々としているハボック。
「だって、お小言に決まってるじゃないっスか。こんっなクソ分厚い文章」
ロイが多少腰を浮かすこともせず、依然重い腰を静めたままであったのは、当然そのお届けものがどうせロクな内容が書かれていないことを予測してのことだった。


「とにかく、どうぞ大佐」
楽しそうにハボックは執務机の上に紐で一つにまとめられた封書を豪快に突きつけた。
椅子のキャスターを転がし、サーッと優雅に離れていくロイ。
壁に手をつき、速度を殺す。
ロイは面倒そうにこめかみをかく。

「・・・いっそ燃やしてしまいたいな」
よほど嫌らしく、体を執務机から離したまま発火布をそろそろと準備しようとするロイ。
が、そこに絶妙の間合いで情け容赦のない伝家の宝刀が振り下ろされた。


「おやめください大佐!」
「中尉!?」
その声主にロイの肩が飛び上がって萎縮した。
先ほどまでのだらけた余裕が一転、顔がひきつれるロイ。
「・・・・・中尉!だ、だがな」
上手い言い訳はないかとなるべく前置きが引きのびるようにどもらせる上司に、思わず吹きだすハボック。


「用が済んだのならとっとと出ていけ!!」
ロイがそこいらの文句状を丸めて部下に投げつけた。
バックステップで器用にひらりとかわすハボック。
「んじゃ!頑張ってくださいね〜。俺はお先に失礼します!!」
快活に笑いながら、一目散に執務室を逃げ出していくハボック。

ロイは瞬間的に自分の落ち度に感づいた。
此処にはまだ有能な腹心がいる。
(しまった!どうせならどさくさに紛れて私も共に出ればよかった!)
そう悔やもしかし、既にハボック退出は完了形。
気まずい二人きりの重圧のかかる雰囲気とリザの無遠慮な視線が体中に突き刺さってくる。

「大佐」
硬い声音に、ロイは観念する。
が、足掻かないのは人として間違っている。
不服そうに口をとがらせ思いつく限りの言い訳を開始した。

「どうせ東方司令部、的確にいえば100の確率で私へのお小言だ。捨てても構わないだろう」
「それでも、目を通すのが部下でしょう」
「大総統への大層な忠誠心があってもか?」
「それでも、です。万が一があれば尚更貴方の忠誠心が疑われます」
ロイの毒含みの反論にリザは大仰に溜息をつく。

それを気にする様子もなく、ロイは傍らに佇むリザに封書を丸めてよこした。
目を白黒させるリザ。


「そういうなら是非朗読を頼むよ」
「嫌です」
即時に拒否するリザ。
「どうして」
「どうせ面白くありませんから」
ロイはしめたとばかりに顔を輝かせた。
彼女さえひきこめれば万事万円に収まる。
希望の光を持って、彼は熱っぽく体を乗り出した。

「なんだ、君も分かってるじゃないか!」
「それでも地位と給料が高い分、上官は苦情を引き受ける義務があります」
明快に言い切る中尉。
上官はうっと言葉に詰まった。
下士官時代彼も似たようなことを彼女に言った覚えがある。


しかしまだまだ往生際の悪かったロイは、引かず一応反論してみた。
反骨精神こそが自分を生かしてきたのだと考える。

「ひ、人を給料泥棒みたいに言わないでくれ。それに向上心は無償だろう?」
「地位あっての向上心ですから。勤めは勤めです」
結局、ロイが丁寧に丸めたまま置かれた封書を渋々に嫌々に伸ばし始めたところに。


「大佐!」

ハボックが再びにやけ顔で現れた。
二人の目線が彼の手にある白い物体に集中した。
「まさか」
こういう時に限って予感というものは良く当たる。
「ご期待通りの文句二便でーす」
「もういらん!!」
「大佐、ですから」
「ああもういらんと言ったらいらん!捨ててしまえ!!」





それ以後、上司からのお小言状を届ける役目はホークアイ中尉に全任されたという話であった。
観念した上司は深刻な懊悩と苦悩の末、意外にも大人しく封切りナイフを購入した、とも聞く。

あくまでも風の噂は噂だが、とりあえず大量の文句に頭を悩ませているのは事実らしい。





「大佐。毎度御馴染みのお小言状です」
「いっそヤギにでも食わせようか」








fin.


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珍しくコメディー風にしてみました。日記ならではのぶっちゃけ方です。
B級どころかD級以下のような気がする文章なのでそのうちゴミ箱行きになりそうです。
ゴミ箱まだ設置していないのですが、初期に書いた二文は確実に特急便で送られる予定。

つかもう既にこれももう突っ込んでしまいたい!(汗)