私は宣言する。


天へでも神様へでも何でもいい。誰でもいい。
世界にいるどこかの誰かに、私の声が届けばいい。笑われようが知るものか。
好きなだけ吼えるがいい。

私は意地でも虚勢でも、胸だけは張って豪語する。
此処にいる理由を、此処に生きる証を。






「king of destroy」







「この力は凄まじいな・・」

彼を除き、一切の生命が掃討された殺風景な風景の中に佇んでいた。
うず高くあちらこちらに積まれる瓦礫の山。
何の感慨もなく、ロイは気のあるようでない台詞を呟き、それをまた自嘲した。
錬成陣の描かれた真白の発火布が快晴の空に鮮やかに照らされる。

家、だったのだろうか―――辺り一体に有機物、無機物が焼け焦げた匂いが混じりあい、異臭が灰の煙となり天高く立ち上っていく。
イシュバールの民が唯一信ずるという神に救いを求めるのろしの様だ。
つい数分前まで神を信じた男ではなく、神を信じない自分が結果的に生存しているという事実に、ロイは皮肉なユーモアを感じた。


「・・・どうされましたか?」
まだ十代の少女の細腕には到底似つかわぬごついリボルバー、肩にはライフルを担ぎ上げて彼女は住宅の壁だった残骸から顔を見せた。
にっこりと笑いながらロイは空を見上げる。
リザの目には彼の笑顔がやけに空々しく見えた。
「私はなぜ生き残っているのだろうね。リザ」
「マスタング少佐・・・!階級でおよびくださいと」
「答えてくれ、リザ。なぜだ?」
見上げたまま彼の肩が震える。


寒そうに、居心地の悪そうに。
叱咤してくれとも言わんばかりに沈んでいく彼の頭は、まるで懺悔しているかのようであった。
でも。
でも、誰に?
神など信じないと、彼はいつか真面目な顔で言った。
信じても、それは何もしてくれないから信教は持たないんだ、と快活に笑う彼が脳裏に蘇る。

リザは何もできない。
だからこそできない。
慰めることも、もういいよと肩を優しくたたいて諦めさせてやることも。
彼の傍にあると決意した、その瞬間からいばらの道を歩むと誓った私の信念に賭けて。



だからリザは傲然と言い切った。
口元に笑みさえはえて。
この傲慢さは貴方の領分でしょう?

「少佐。予言しましょう。貴方は必ず上に立ちます」
だから私はここにいる。
ロイの肩がピクリと反射し、俯かせていた顔をのろのろと上げる。
リザを見遣る。
彼女はリボルバーの殺戮を繰り返すその黒光りとは全く対照的に、穏やかな微笑をもってロイを抱きしめた。
人肌の温度が軍服越しに伝染する。温かさが感覚を酔わせる。


「神よりも何よりもどんな人間よりも、貴方を信じます。私は」
自分よりもうまく筋肉のついた、まぎれもない男の体躯をした彼の背中には上手く手が回らずに歯がゆさが募る。



どこにでも居てあげましょう。
足先でも、腰にでも、唇にでも。
貴方が望むポジションに、貴方を支える為ならば何処へでも。
たとえそれが地獄だったとしても、私は毅然と足を踏み鳴らして貴方の傍らを歩くでしょう。



ロイはだらりと垂れていた腕に力をこめた。
リザの体を抱きすくめる、いや、しがみつくために。
満たされない空虚の中で、人一人分の優しくい優しい温度が伝わる。
人外だと罵られ貶され畏怖されようとも、君が機転を利かせて踏み鳴らす足音できっと罵倒すらも聞こえない。
余所見をする暇すら与えずにいつも通りに書類を私の前に積み上げて、いつも通りにコーヒーを差し出すのだろう。
無表情に埋もれた優しさで。


「ありがとう」
「何にですか」
「もちろん。君に」
ロイは息苦しさを中和するように、リザの髪に口付ける。
と、彼女は力を抜いてロイの胸板に顔を埋めてしまった。
きっと赤くなっているのだろうと目星をつけて嫌がらせついでに髪に唇を当てたまま目線をやれば、 案の定隠し切れない耳たぶが熱を帯びて染まっている。


そこにリザの照れ隠しの一撃が飛んだ。
「上司があまり謝辞ばかり述べていては、部下に示しがつきませんよ?」
「そうだな。その通りだ。君が正しい」
ロイは優しく目を細め、優しい手つきで金髪の髪を撫で付ける。
「私は間違いだらけの男だ」
「ええ」
「だから」
「ですから?」
逡巡が感じられ、リザは急かす様に顔を上げる。
頬はまだほんのりと赤い。
彼女の様子に可笑しげに目を細めると、ロイはふてぶてしく言い放った。


「だから私の傍で間違いを正し続けろ」
「な」
唖然とするリザ。
ロイは問答無用の身勝手さでまくしたてる。


「否定など許さない。拒絶など考えもしない」
焼け焦げた家々を足蹴に、彼は断言した。
それこそ世界の帝王の如く傲慢に。






「 相手が悪かったな。君には死ぬまで傍にいてもらう」
一涙の哀れみも感じられない表情でもって、ロイは偉そうに笑った。







迷いや躊躇は、すべて大総統になってから引き受けよう。
だからその日までは死ね。
私は殺戮を繰り返そう。

死した陶酔と憐憫を、消し炭になるまで燃やし尽くせ。







fin.



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「king of destroy」= 「破壊の帝王」

暗さ炸裂でもうどーしようか。
アニメ直後(イシュバールの回)に日記に書いたもの+α文。
アニメで出た増幅効果のある指輪使わせようかなーとも思ったんだけど、原作で「賢者の石か!」とか驚いてるくらいなので知らんのかも。
とか思って使わせませんでした。感情殺して戦ってたんだろうなと思うんですが。大佐。
原作でそこらへんでてくれるといいなぁとか。

しっかしどうしたってイシュバールネタは暗くなるのです。反省。
*ちなみにこれも日記からの改訂版。意外と長かったのね。(ビックリ)