「幼馴染」




ウィンリィはくじけない。



「いい加減にしなさいよ」
腰に手を当て、いわゆる仁王立ちというやつでザッと折った膝に顔を埋める幼馴染の前に立ちはだかった。
いかにもやる気ナシです、どっか行けと訴えるエドの顔に一瞬ハラワタが煮えくり返るまで行かずとも急激沸騰もしたが、しかし冷静に冷静に。私は冷静に話したいのよ。
そう怒りを諌め、ウィンリィはつりあがり掛けた眉を決して容易いとはいはない―――それなりの苦労を労して、なんとか静めた。
傷だらけのエドにウィンリィはあえて軽く会話を切り出した。


「アンタも少しは我慢しなさいよ。しょうがないじゃない」
「母さんの悪口を言われてもか?」
「それは・・・」


エドは幼年学校のクラスメートと本当に些細なことで口論となった。
気性の穏やかとは天地がひっくり返っても言えないエドである。

相手もこれまた気が強く、折れる気配は一向に見せぬままエスカレートにエスカレートを重ね、ついには取っ組み合いにまで発展し、見かねた、喧嘩では兄よりも手腕勝るアルがとうとう仲裁にまでかかった丁度その時に、心無い偶発的な言葉がポンと、そう、相手にとってもほとんど勢いまかせに―――その少年にしてみても思いがけず飛び出てしまったのだろう。

母親を中傷する心ない一言に、エドはぷっつりと自制という名の糸がぷっつりと断裂し、気が付けば一撃のもとに相手に泡を吹かせてしまった。
はっと我に返ったエドは痛がる相手に一言謝罪すると、その場を一目散に逃げ出したのだった。
酷い形で負かしたのが怖かったのではない。
なによりも母親に、その悪口を知られてしまうのが恐ろしかったのだ。

エドは母親が大好きだ。そして弟も言うまでもない。
優しくて、温かくて、太陽がそのまま彼ら兄弟の前に現れたような人なのだ。
その母がロクでもない父親のせいで影で泣いていることも知っている。
実際には喧嘩相手の少年は、連絡一つ寄越さず放浪する父親の罵倒をしたわけで、母親を泣かせる父親を嫌うエドにとっては屁でもなかったがしかし、それは自分たち以上に母を悲しませる言動だったのだ。

それだけはなんとしても許しがたい。



「許せなかったんだ。アイツなんかどうでもいいけど、
母さんが悲しむようなこと平気で言う奴なんて」
それでも反省はしているらしく、体育座りで居心地悪そうに身じろぎをするエドにウィンリィは嘆息した。
「・・・とりあえず、アンタが殴り倒した時の怪我は大丈夫だったわよ。怪我は大した事ないって。それに、メトロ謝ってたわよ。ひどいこといって、こっちこそごめんなって」
「・・そっか」
「母さん、知ってるかな。喧嘩の内容」
「だいじょーぶよ。あたしも誤魔化しなら参加してあげるから。ほら立って」
「うるせーよ。お前先帰れ」

少々情けなくなったのか、不貞腐れるエドはそっぽを向いてウィンリィをはね付ける。
ひくりと口元をひきつらせ、やっぱりコイツは可愛くないと確信する。

「だめよ。私が怒られるでしょ」
「何でだよ」
自身でも何でだろうと首を傾げ、言葉に詰まるウィンリィ。
適当だったなんて格好悪くて言えはしない。

「いや〜・・なんでだろ。とにかく!ほら夕飯でしょ!」
力任せにエドをひっぱりあげたウィンリィは半ば強制的にずるずると同じ体格の体を引きずっていく。

「うわぁ、アブね、こけるだろうが!」
「うるさいわね!背が伸びるからいいじゃない!」
「さっきからテキトウなことばっか言ってんじゃねえよ!!この暴力女!」
「うっさいわねチビ!」
「チビっていうな!まだ分かんねえだろうがンなこと!」
「ウィンリィの大予言よ。よく当るんだから」


ウィンリィの偉大にしてテキトウすぎる大予言は、こればかりは的を的中させることとなり、エドは「今度は伸びるって予言しろ」などと無茶な注文をつけては「縮む縮む」と逆にからかわれて逆上ばかりしているらしい。





fin.



---



子供時代の話って大好きなんです。
でもちっちゃいながらチューとかしちゃってんですねきっと。
ファーストキスは幼稚園ってよくある話じゃないですか。