ふと弾ける疑問がある。
ふと駆りたてる愚問がある。
そして、ふと顧みる現実がある。




「ねえ」





「ねぇ、エド」
「なんだよ?」
ホットチョコレートがほかほかと陽気に湯気を上げる。
甘ったるい匂いに心まで浮かされてしまえるほど、とても気分良い胸中でもなくて、
ウィンリィは手の中で白のマグカップをぐるぐると回す。
白いミルク成分が呼吸を合わせたように渦を巻く。

「あのね」
「ああ」

とても目なんて向けてやれる余裕などないはずなのに、何処からか湧き出てきた不可解な好奇心が幼馴染に押し黙っていた手元から視線が移る。
昔の短髪が今では三つ網が編めてしまえるほどに長い金髪。
黒のタンクトップから伸びる腕は彼の二つ名に相応しく、
鋼の鈍い眼光がウィンリィの瞳を射やった。

さして毒でもないはずの眩しさに、反射的に瞑られる青い瞳。
なぜだろうと疑問に思う暇与えず、
ウィンリィは闇の世界に佇んだままくすくすと可笑しそうに笑い出す。



「ねえ。チャンスだと思わない?」
「・・・まさか襲うチャンスだとか言いだすんじゃねえだろうな」
「違う?」
「・・恥ずかしい女!」
嫌味に言い放った後、チョコレートの甘い香りを口内に忍び込ませたアンタが言える台詞じゃないと思うけどね。

ぎこちないながらも優しく、壊れ物をでも包み込むようにそろそろと絡まってくる体温に、ほんの少しの恐怖が巨大な幸福へと姿を変える。
やはり少しだけ広く筋のついた背中にウィンリィは遠慮なしに、いや、子供が親にお菓子をちょうだいと駄々をこねるように腕を回した。


「お願い。いつでもココに帰ってきて。アンタの家はここなのよ」

分かってる。

言葉にされなくとも伝わってくる彼の沈黙が、なんだかバカなくらいに嬉しすぎて、
ウィンリィはまた笑い始める。

ほんの少しだけ、溶解したチョコレートの甘さがようやく体中に回り始めたので、
ほんの少しの芽生えた不安を、きっとみるみるうちに打ち負かしてくれることだろう。






fin.





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エドウィンはなんでだか甘くてもOKなのね。なんでだろう。
SSというよりもSSSですが、最近はようやく掴めて来たのでマトモに書けるようになってきた。
エド方面からも書きたいんだけど、どうしてもウィンリィに感情移入しちゃってウィンリィ側からになるのね気付けば。

とにかく15歳の女の子のドキドキ、15歳の男の子のドキドキを初々しく書ければなぁと。
ロイアイはもうどこか恋愛に達観してるので、思春期まっさかり風味で。
多少艶っぽいもんも考えてるのよ。でもまだ微妙な片思い路線で。楽しいし。