瞳、閉じて。
そう囁けば君は笑うような気もしたし、泣き出しそうな気もした。
けれどそれも昔の話。遠い遠い子供の頃の話。









「見えないよ?」
「見るな」
可笑しそうにクスクスと笑うウィンリィは、唐突に幼馴染の手で目隠しをされたとしても、されるがまま、為されるがままにしておいても平気だと、無害だと鷹を括って心の底から安心していた。

そうでなければならないとも思っていたし、多分これからも、長いんだか短いんだか分からない彼女の人生においてそれは普遍的な関係であると盲信していた。いやしていたかったのかもしれない。

安らぎは刹那的なものであり、悲劇は前振りのない唐突なものであり、たとえ自身の両親の死を涙を堪える祖母の口から聞かされたとしても、ウィンリィはしばらく平然としていたのだ。

溢れ出すには幾分かの時間を要する。
まずまさかという疑念が生まれ、次にそうなのかもしれないと疑り、最後にそうなのだと目の背けようのない現実のみが満を持してその懐に収めていた鋭利な刺を体中に心に、情け容赦なく突きつけてくるのだ。

「・・ウィンリィ」
「今のままじゃ、ダメなの?」
「幼馴染」というひび割れた境界線が脆くも倒壊する瞬間、どんな甘美な音を奏でてくれるのだろうか?
「お前はいいのか?」
「私に聞くのは、ずるいよ」
「どっちが」
故意に生じている真っ暗闇の中で、すっかり迷子になってしまって、たとえばエドの中に留まる幼いウィンリィは白兎のように真っ赤に目を腫らして途方に暮れている。

「泣くほど嫌か?」
「泣いてないわよ」

エドの指が室内とは高低さ甚だしい流れ出した温度に気付き、肩が少し震えたことはウィンリィにもすぐに伝わったものの、踏み出せない一歩を手持ち無沙汰に彷徨わせたまま、結局足はライン上に留まっている。

初めの一歩で、私はどうなるのだろうか。
私は泣くのだろうか、笑うのだろうか。

先が見えない未来は前触れも確証もなにも頼れるものがないから怖い。
しかしその喪失を我慢できるのではないかと疑ってしまえるほど、愛情というものが今にも走り出したくなる衝動に駆られる事実もまた、どこか怖い。

「勇気、くれる?」
「オレはお前からもらってるけどな」
今一歩の勇気をください。
力をこめて、思いをこめて、飛び込めるくらいの畏れをも吹き飛ばす光を私に。








fin.






>アンケートお礼でした。