一瞬でも見逃したくないのに、乾燥からひた守ろうとする瞼が
意志に反してぱちぱちと暗転してくれるのは嫌がらせだろうかとふと思う。
鮮やかな一秒がそこにあったのかもしれないのに、そう思いながら恨めしく彼女の背中ばかり追いかけている自分が全くもって情けなくて、
ああ瞳の乾燥にも関係なしに、涙がちょちょぎれてくる次第だよ。君。




「dry」




リザは都合の良いことにロイよりも肩一つぶんだけ、背が低かった。
もしかしたらこの瞬間のために二人の身長差は与えられたのではないかと、そう勘違いしてしまいそうになるほど、初めてリザの頬に触れてみるという動作も思うよりスムーズに事が運んでしまって、逆にこちらが驚かされてしまった。
それでも肩を跳ね上がらせ、驚いて見あげてくる青い瞳に、ロイは全て振りではない、満足げに微笑んでおいてから気分新たに一気に眼前の彼女に意識を戻した。


「大佐」

こんな時だというのに、ムードも介さず、用事は何ですかと催促するように首を傾げてくる彼女に、彼はいささか不本意にもむっとし、こんな素敵な青年が傍にいるに関わらず意識すらもしてくれてはいなかったのかと少し肩を落とした。
初めて指を滑らせる、指に吸い付いてくる弾力のあるリザの肌は、
まるでいつかの処女のように柔らかく、あるうららかな春の日にどこの誰だったか、もう顔すらも忘れてしまった女と口付けを交わしたいつかの日を思い出したが、別の女性、しかも大本命だ―――を前にしては、いささか不謹慎すぎるなと我ながら呆れつつも、さして抵抗らしい抵抗もみせないリザの心地よい頬を、指の腹で掻く。

「君は誰にでもさせるのか?こんなことを」
「そうであってほしいですか?」

手ごわいな、とロイは内心舌打ちする。
そうは思いつつもしかし、きっとロイは容易く手に堕ちるような女であれば、その程度かと落胆し、そうでなければさすが自分が見込んだ女だけはあると、勝手極まりないこの天邪鬼は、戯れの一興と可笑しがるに違いなく。


そして今、正にその状況、現在進行形の世界。
ロイはリザの揺ぎない、強烈な引力を持つ瞳に、まるで太陽の周りを周る惑星のように吸い寄せられ、為されるがままに、喩え彼女にその気がなくとも踊らされている。

「いいや、と言ったほうが嬉しいか?」
「さぁ、どうでしょうね」
さらりと追求を交わすリザにロイはなんとか捕まえてやろうと次第に躍起に、ムキになってくる。
自覚などとうにしている。自分でもバカだと思う。

「余裕があるようだな」
「さぁ、どうでしょうね」
はたまた追捕の手からひらりと優雅に身を翻すリザは、
底を探っても余裕などあるはずもない心境下に置かれようとも、今だ瞳はしっかりと見開いたままであり、また、目を背けようともしなかった。
負けるのは嫌いだったし、逃げるのも性に合わない。面白くもない。

だったらとことんどこまで行けるのかどこまでロイの誘惑やぴんと張り詰めた緊張に耐えられるのか試してあげる。
それがロイの巧みな誘導の技か計算外かは、神のみぞ知るというところだ。


「男慣れしてるんだな。意外に」
「そうですね。別に大佐は私が今まで誰とも付き合いがないとでもまさか思ってはいらっしゃらないでしょう」

安に貶しともとられかねない発言をしてみた。
もちろんそれは本意ではなく、動揺するリザを見たいが為の挑発であったのだが、どこまでも悪巧み尽くめの黒波に乗ってくることのない彼女に、
そろそろロイは溜息すらつきたくなってきた。
そして同時に疼いてくるのは反骨精神。
なんとしてもこの女を落としてやる、そういうアレだ。


「そうだな。私も君のような美人相手を放ってはおかないだろう」
しかし上を軍人には欠かせない、ハングリー精神とやらもいい加減切れてくるし、痺れも既に早々と切らしていたので。

頬よりもずっとイイ子に受け入れた紅色づく唇の温かさに、
ロイはついに瞬いた彼女の瞳にちらちらと映る自分の姿を細め目にうかがいながら嬉しがりつつも、やめてやることもなくじっくりと食らう唇は、
なんだかとても小気味良くて、良すぎて癖になりそうな予感すらする。





fin.





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お久々なロイアイでしたー。
もういつぶりだか本人も記憶がありません。
読まれた方、とりあえず、鬼畜、変態!と大佐に叫んでおきましょう。
直していても、ああやっぱあたしはロイアイ好きだわと実感です。
書いたのはとりあえず1ヶ月よりも前ですね。すみませんー!

かなりの気まぐれと、時間の都合で更新してます。
ロイアイ好きな方は感想くださると嬉しいです。
なんだかSEEDが最近中心気味ですので。
(意識を繋ぎとめる楔ですねー・・・←情けない!)