「私は君の手が好きだな」と、彼は言う。


体中がむず痒くなるような台詞をも平然と口に乗せてみせる男は、
そのまま唇で首から肩、腕を伝わせ、そして手の甲で一度口付け。
白に赤々と華が一輪咲き残され、次に唇が走る先は指先。

「君の指も好きだ。大事にしてくれ」
と言って、少しだけ目元を細めると。

彼はリザの白く、細い指、一指一指に人の柔らかさを確認させ、
そしてその大きな手で優しく優しく包み込むのです。





「pain」





まだ少しだけ寒さの残る季節のお陰か、はたまた不本意甚だしい理由での
昨今不規則な生活リズムのお陰か。

「あら」
リザはすらすらと紙をなぞるペン先がそろそろ掠れてきたことに気付き、インク蓋を開けようとそれとなく狭い周囲に目を配ったところ、発生した事態を甚だ不本意に目撃してしまい、思考のある一点のみを思いやって硬直した。
彼の台詞がぐるぐると途方もなく巡り回る。

「進んでいるかね」
コーヒーを片手にぬっと唐突にリザの肩から顔を出したロイは、まるで無反応、ノーリアクションのリザに不審気に首を傾げる。
まるで面白みもない反応に無視されたのかとご立腹の様子でもあったが。


「中尉、どうかしたのか?」
それとなく予想される事態を事前に回避できないのはあまりにもまぬけすぎるが、
殊彼に関しては通用されない法則だと思う。
リザは早々に原因となりうるそれを隠蔽することで今度こそ愚直極まりない甘ったるいルールをぶち破ってやろうと、原因をそれとなく片手で覆い隠し、一時的にでも彼の視野から除去にかかろうとする。

「いえ・・・・・」
「あ!」

しかしながら今回も目ざといロイに不運にも発見されてしまったらしい。
舌打ちの代わりに眉目をしかめるリザは、それでもと彼に細い肩腕を持ち上げられるまで、足掻きの証拠隠滅を謀っていた。
宙に腕が浮くも、加減されているのか握られた腕はそう痛くもなかったが、しかしロイの感情までもは便乗しない。


「どうして指にささくれなんてできてるんだ」
「私にどうしてと言われましても」
さもリザが加害者のように批難がましい瞳と声をくれてくるので、リザは止む終えぬ事態に諦めのかぶりを振る。

ロイが凝視する高く上げられた自身の指先に目線をやれば、確かに右手薬指。
爪少し脇に皮膚が数ミリ毛羽立ち、血が滲んでいるのが視認できたものの、
だがそれだけだ。
一般的に見ても、目くじらを立ててどうこういうほどの大事でもなく、むしろ些細、微細の分類にそぐうに違いない。


「言ったじゃないか。私は君の手が、指が好きだと」
「あれは冗談でしょう?」
そうでないと承知しているに関わらず、まさか、と大仰に驚いてみせるリザは逃げにかかろうと話を茶化す。
思惑を見透かすロイは、気にいらないとでも文句を言いたげに口を開いたものの、
吐息が零れるか零れないかの寸で、ひらめきに彼はふっと含み笑いを浮かべる。


リザの指のささくれを容赦なく、かつ最短で勢い殺さず剥ぎ取ると、
リザの痛覚を一線が突き抜けた。
「・・った!」
「大丈夫だ。人間の唾液には消毒効果がある」

睨みついでにあがる悲鳴に憮然とそう言い放つと、
指に滲む血、傷を微かに沁みる痛みもろとも治療してしまった。


痛覚にゴールした痛みと同時に、耳元に「今日は残業がないように終わらせるから」とそっと囁かれたことだなんて知らない。
もし私が知ってしまって、少しでも心の片隅にでもその気遣いを嬉しがったとも知れば、
きっと貴方は面白がって私は甚だ面白くないでしょうからそんなことは知らない。







fin.



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変態だ。
変態がいる!!というかなんでそんなフェチっぽいんだよ大佐。
攻め大佐がアンケートで好調だったので、攻め攻め攻め、いっそ変態へということで
1日限定で載せてたやつを改訂したものです。
SS?SSS?
もうなんでもいいや。あたしは変態だろうがフェチだろうが大佐好きです。
そんでもって中尉もぐだぐだごねつつ嫌いではないのです。
思惑通りで面白くもないことだねリザさん。