いつだって格好をつけたがるあの人が、
他人には甘く自分には厳しい彼にすれば泣きすぎだというくらいに
涙を流した瞬間を見つめた時、私はどうにも頭が正常に働かなくなり、
私は気の利いた台詞一つ言えず惚けたように、
ただただ彼の体をきつくきつく抱きしめていました。
だからどうとかいうわけではなく、ただそれだけの話です。




「beautiful」




彼がそのライターを手放さない昼もないし夜だってない。
彼の腕の中でまどろみつつ思わぬ眩しさに白い瞼を瞳孔を収縮させながら、手の甲でごしごしと瞳を擦るリザはベッドのサイドボードに置かれた懐中時計に手を伸ばし、枕に顔を埋めたまま蓋を開け、横目に短針を確かめる。

時刻は午前3時を回ったところ。

「ん・・・まだ・・・?」
まだ寝過ごしていても大丈夫と安堵したリザは包み込むようなロイの人肌の心地よさに再び眠りの世界に入ろうといつの間にかずり下がっていた上かけを肩にまで片手間に引き寄せると、自然と身じろぎすら制限する彼の腕の囲いに誘われるよう、眠気の中温かさへとすりよっていく。

か細い彼女の手を顔の前に持ってきてさて寝入ろうとしたところに、懐中時計を握ったままであることに
気付かされ、気難しそうに眉をひそめたリザはしぶしぶ上体を起すとサイドボードにそれを戻し、
ついでに付けっぱなしのランプを切ろうとベッドから身を伸ばし腕を上げると、思わぬものに目を当ててしまい、しばし硬直する。
今は亡き上官であり、ロイ・マスタングの親友でもあったヒューズのものである古びたライターがサイドボードに無造作に転がっていた。


リザはランプから漏れ出るオレンジにライターが乱反射した鈍い光に目を射やられる。
眩しくはないはずなのにひどく目に堪える苦痛は、やがてリザに不可解な自責の念に駆らせて、まるで逃げるように目を背けてランプの明かりを消すと、ただ月明かりのみがロイの自室へと差し込むばかりで、夜目を利かせるには光量はほどよい。


リザは陰鬱な気分を軽く首を振って振り払うと、
彼女の傍らで、深く睡眠を貪るロイの髪を、そっと撫で付けた。
彼の黒い髪は、闇では暗すぎて消えてしまいそうにも思える。
無防備すぎる寝顔で静かに寝息を立てるロイを見つめていると、墓前の涙が思い起こされ、そして打ち消したはずのライターに潜む影。
リザは彼を締め付ける苦しさに、心が焼け付いた。


ロイの顔横に肘付き、そっと首筋から指を這わせ、
一筋鎖骨に一線を描くも、ロイは一向に目覚める気配を持たなかった。

「貴方が安心しきる相手が、本当に私でいいんですか・・?」

イシュバールを始め、歴戦の錬金術師である彼はいつ襲撃に遭うやもしれぬ野営も多く、こうして完全に無体を相手に晒すことすらないというのに。
少し掠れた声をリザは優しく喉に震わせた。
「・・知りませんよ?後悔しても」


普段は貴方を手放したいように振舞う癖に、私ときたら貴方の親友を妬んでしまうほど、本当は誰よりも繋ぎ止めたいと思っている。
そんな勝手すぎる女に油断したことを、貴方はきっと、悔いるに違いない。
彼の手の内に居ることを許諾されているようで、リザは小さくはない喜びに柔らかく目を細め、ほどよく引き締ったすこし浅黒い胸板に耳を滑らせ、跳ねる心音を確かめると、緩慢な動作で上体を起し、頬に流れ落ちる金髪をかき上げロイの鼓動打つ上に一つ、赤い痕を残して、彼の頭を抱きしめると、頬を水滴がふと伝った気がした。


貴方がいるこの世界は、なんと美しい。





fin.




独占欲リザでした 
不器用な彼女が私は大好きです
ロイにとって素顔が見せられる人がリザであるといいなあ いやそうなんだろうけど!
少なくとも本誌で本音を吐けるのは、もはやリザだけになってしまったのかもしれない うう
会話が少ないのはなんともしようがないですね・・!
私、こういう雰囲気が好きすぎてロイアイはこうなってしまいますね・・へへ
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