愛に狂う。
恋に狂う。
不本意ながら貴方に狂う。

理性は正確に、彼を毒だと判断しているにも関わらず常習してしまう私。
そこまで追い詰められてしまえば、もはや回避手段など残されていないではないか。

酔狂にもほどがあるわ。
逃げずにちゃんと向かい合いなさい。私。





「Love Addict」




その規則正しい寝息とあどけない無防備な顔で、何度私を脅迫しただろうか。
リザは大変目つきの悪い瞳で執務机に上体の体重をどっしりとかけ、
腕に顔を埋めているロイをじっと睨んだ。
ペンは放り投げられたまま虚しくペン先の乾きそうなインクは、
そろそろ拭き取らなければ後取れにくそうだなと安易に予想できた。

「・・・大佐」

確か彼のペンには愛着がある、というのをくだらないと聞き流していた気がする。
多少は痛い目に遭った方が今後の為じゃないのか、ともリザはシビアに思いつつも、
気付がつけば、いそいそとペン先に溜まったインクをきっちりと拭き取ってやっている。
最近、酷く甘やかしすぎなのかもしれない。


「大佐」
眠り続けるロイ。
いっそうリザの不機嫌の色が増した。

いつも私が飴ばかり与えてしまうから、この上官は図に乗って、 あれこれサボりたがって、
挙句事後処理までつき合わせる羽目になるのだ。そうに違いない。
私は好きでやっているのだけれど、けれど好きだ好きだとはいえ、
これではあたかも一方的な見込みもない片思い相手に、
便利だからと過大な負担をかけられているような気がしなくもない。

「大佐」

それでも、いつもこの男の寝顔に不当に脅されている。
胸に秘めた密やかな衝動が理性を揺さぶる。
彼の黒髪は月明かりに映える。
暗闇に浮かび上がる漆黒は、酷く独占欲を企てさせて。

「・・・大佐」
起きてください。
起きないで下さい。
今から私は愚かなただの女になりますから、数分だけ瞼を閉じていてください。

リザはそっとロイに近寄り、長く伸びてきている前髪をつまみ、
誰にも見せたことのない優しさで微笑する。
軽く開けられた唇に誘われるまま、そっと口付ける。

黒髪を愛し気に撫でつけ、二度目の触れるだけのキス。
男の体は硬いが、唇だけは例外に想像するよりもずっと柔らかい。
何度も何度も、体温を触れさせ、ついばみ。
長い睫毛を横目で見遣りながら、小鳥が餌をつつくように。


リザはようやく満たされた甘い飢えを潤し、穏やかな面持ちで唇を離そうとした。
しかし視界が瞬く間に暗転する。

「・・・・・それだけかい?」
笑みすら浮かべたロイは、心底憎らしい声で男はリザを執務机に組み敷くと、暴れようとする腕を両手で押さえ込む。
彼女の足を両足で固定した。

「放してくださ」
「それはないんじゃないのか?先に仕掛けたのは君だ」
そして先ほどのリザのものとはまるで違う、噛み付くようなキス。
熱情を秘めた嵐がやってくる。

「・・・っう・・」

唇の柔らかさにむせ返る。
逃げを打とうとするリザの舌をいとも容易く捕えて口内を蹂躙する。
時計の秒針が刻まれる度にます激しさに頭が朦朧とする。
理性が手放される。底なしの蜜に放り込まれてしまう。

ダメだ!
リザは我に返り、食らいついてくる唇を力任せに噛んだ。
途端、驚きに緩められた力にリザはロイの体を振り払い、執務室から逃げ出していった。

一人取り残されたロイは、少し温まってしまった執務机を撫でて、
思ったよりも唇の浅い噛み傷に指を当てた。
「痛いじゃないか・・」
切れた傷口から滲んだ血を、ロイは舐め取った。



リザは走っていた。
何処に向かっているのかは分からないが、とにかく走っていることだけは間違いなかった。

なぜあんなことをしてしまったんだろう。
狂ってる狂ってる世界が、あの男が狂ってる。
そうでなければ私がどうにかしている。
眼前に広がる屋上への鉄製の扉を開け、勢いよく閉めた扉の鍵をかけ、
背を扉に任せたままずるずるとへたり込んだ。


「・・・ああ、もう!!」
金の前髪を無造作にかきあげる。
唇に微かな痛みが走り、リザは唇に手を触れた。
ロイの唇だけを噛んだつもりが、自分まで噛んでしまったらしい。
しかし、傷がない場所からも血液が指に付着した。
もしかして、これは。
「・・・・大佐の?」

傷口僅かに彩る赤はあの人の赤。
リザはすぐさま手の甲で拭おうとするも、
不本意ながら手は眼前で止まったまま動こうとはしなかったので、そのまま放置しておくことにした。



純朴そのものの青空から目を背けたくて、瞳を瞑る。
「狂ってるわ」
知らない私が世界の中心で愛を叫ぶ。

「狂ってる・・・・」






fin.



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「love addict」=「愛に狂う」


好きで好きでしょうがないけど、表現が下手くそすぎるリザとロイでした。
嬉しかったんだと思うな。多分ロイは。

今回の題材は、シンガー、中島美嘉さんの曲から。
好きすぎてどうしようもない。
ジャズ系なノリの良い曲調とアダっぽい歌詞がロイアイっぽくて勝手にロイアイソングに固定。
ちょーっと(かなり?)歌詞がエロいんですが(笑)イイ曲なので聞いてみてもいいかも。
聞いてみたい、という方はサビ部分だけ試聴が下のURLからできるよ。(REAL or Windous)

http://www.sonymusic.co.jp/Music/Arch/AI/MikaNakashima/sound.html

最新アルバム「LOVE」に収録されてます。
「接吻」も書いてみたいな〜。