戦火の光、核の光。
時には海の向こうに、空の向こうで起こる哀しい輝きが、日に日にキラを苦しめていく。
ラクスは今日も朝から海辺に出たキラの後姿を見つめて、目を閉じる。
燃える太陽がキラの背中を、黒く塗りつぶしてあまりに酷く儚さを感じさせたので、不安に促されラクスは無意識に手を握り締めていた。
きっと今私は悲しそうな顔をしていると自覚しているから、いつもまずは唇を横に引く。
そのまま口端を持ち上げて青い瞳をゆっくりと見開いていくと、なんとか微笑みができあがった。
顔に手を這わせ再度確認してから、ラクスはキラへと近づいていく。
割合に深い砂浜には体重で歩くたびにじゃりじゃりという音と共に足が埋もれた。
一歩片足を先に出す度に乾いた砂が指の隙間に雪崩れ込んでは、砂の中へと足元を誘おうとする。
まるで蟻地獄のようだと、ラクスは思った。
キラはこの砂浜で空を見上げるたび、海の向こうを見る度に一体何を思っているのだろうか。
「キラ」
彼の名を呼んだ。それこそ、吹く海風に攫われてしまいそうな小さな声で。
だというのに、それこそを待っていたかのように彼はこちらを少しだけこちらを振り向いて、私の存在を了承する。
彼の内面そのもののような小さな世界にノックして、扉を開放されたのだ。
安堵に頷いて、ラクスは歩速を僅かながら速めて一直線にキラの隣へと向かい、砂の深度が浅くなった波打ち際にキラと爪先を並べると、また立ち止まる。
キラの周囲には糸が複雑に絡まっていて、何者も寄せ付けぬ孤独と追憶と無念さ、
そして悲しみが盾として今だ一度は数メートル後で許容したはずのラクスをも拒絶しているようで、彼女はただひたすら沈黙する。
拒まれてもよかった。ただ、凍える彼の身体に温かみを、たとえ微々たるものでしかないとしても、傍にいることで何か一つでも与えられればそれで十分だったのだ。
今の彼は昔と今の死の境界線を意識下に彷徨っている。
MSに乗っていた頃の彼の孤独、経験した苦しみや絶望は誰にも別つことができず、また抱えることが戦場を駆った者の生涯背負わなければならない宿命でもある。
誰も人の全てを理解することなどできないし、キラもラクスの全てを理解することはできないだろう。
そう望んだとて、愛を理由に叫んでみたとしても、人一人は、やはり一人でしかないから。
ただ肯定することはできる。傍にいることはできる。全てを分かり合えなくとも、支えあうことはできる。
潮の匂いが、穏やかに鼻腔を掠めていく。美しい夕日の向こうでは今日も海の果てで瞬く光は跳ね回り、命の花火が上がっては消えていった。
ふいにキラが口を開いた。無表情に固まったまま、一人包まる繭に垣間見える彼の紫の瞳。
「ごめんね、ラクス」
「いいえ」
「傍にいてほしいんだ。でもいてほしくないんだ。でもいてほしいんだ」
「………はい」
「―――――――行かないで」
「はい」
真っ直ぐ戦場の影を見据えたまま、キラの震える手がラクスの指へと絡み、冷えた肌に彼女の温もりが沁み込んでいく。
「我侭でごめんね」

でも、




「傍にいて」











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