*若干性描写が入ります。15歳未満の方は閲覧をお控えください。当方は一切責任を負いません。
激しく慣れたキララク(かなり普通の恋人っぽい)ので、高潔がお好きな方も↑と同様でお願いします。あるものについての説明が少しあり、一応信憑性の高そうなところを参考にしましたが、興味がおありの方は鵜呑みにせず、必ずご自分でお調べください。







Re:birthday_3





遺伝子強化により、人類をナチュラル・コーディネーターという区分を確定した現在となり、コーディネーターの進歩に歯止めがかかっている。
第二世代以降、不妊患者が右肩上がりに上昇したコーディネーターに顕著であるのだが――――『避妊』という観念は、ナチュラルしか存在しなかった時分と比較すれば、コーディネーターにとりかなり薄く、第二世代同士ともなれば尚更顕著である。

政府は、第一世代の発展系である、第二世代による出産にこそ望んでおり、その為の婚姻統制である。
無論、当人同士の意志を一応は問い、拒否すれば制従することは回避されるが、大半は親の薦めや無言のうちの強制力により婚姻を結ぶ。
精神的に熟しきらない、14、5歳という微妙な若年齢期に婚姻統制が適用されるのにも、リスクを押さえ、拒否者を軽減させる明確な狙いがあるのだろう。
人口が減ることは、更なる遺伝子向上飛躍をめざし、一時的に前々大戦で停滞はしているものの…第二世代の不妊、すなわち重大なコーディネータの絶種危機である。
また、婚姻統制は、第二世代による風紀的な乱れを抑制する狙いをも兼備しているのやもしれない。社会的に荒廃すると略奪・暴動・暴行など、同様の事態が予測され、また逆であっても社会の荒廃を招く。
ナチュラルより優位と思考する者が当然ながら、その種の研究者の大半を占める。過去の歴史に習って、ナチュラルのような野蛮な行為に走らぬように、と皮肉にも差別が功を奏した結果として、これについて強固な予防線を予め準備していたことが現在、プラントの発展を支えたのやもしれない。

ラクスには、様々な知識が幼少よりクラインの娘に相応のものを叩き込まれていた。
しかし、第二世代特有の事情により、コーディネーター故に避妊についての知識習得には、多少の時間と手間を要さねばならなかった。
とはいえ、大体が周囲は男性だらけ、女性はクライン派においても圧倒的に少なくい上に、ラクス・クラインらしくもない私情すぎる私情を語れる人物など、殊更限定され、相談者の選定には難航を極めた。

勘の良いバルトフェルトは予見するように、いつかこう言ったものだ。
「君はある種、偶像対象でもある。好かれる所以は君が思いもよらないような、様々なところに発生するもので、その大地が広大であればあるほど、多種多様な人間が多種多様のベクトルを、君に大して勝手気ままに突きつける。イメージの保持ということにも気をつけることだな。…まあ、聡明な君なら、言われるまでもないのかもしれないが?」
ちゃらけるバルトフェルトに、ラクスは苦笑する。父にいつか言われた言葉とまるで同じだ。
「……あまり、嬉しくはないですわね。偶像ですか」
「君がどうだろうと、他人は、君と違うから他人なのさ。君が上に立って、権力と弁舌を振るって物事を動かすには、 それなりのメリットと厄介事が同時発生するものだよ。因縁を甘受して、潔くあきらめろ!」 と軽妙に言い負かされてからは、ラクスは意識して戒めとして『ラクス・クライン』たる別人格についての自覚を深めている。

相談相手は慎重に選定しなければならない…と悶々としていたラクスに、救いの女神が浮上した。その人物は、ターミナルでも度々顔を合わせて、父を介してではあったが仲がよいMSパイロットの一人である、ヒルダであった。
片目を眼帯で覆う彼女は、一見女傑といった風貌で(その通りではあるのだが)ラクスとは対極に位置する雰囲気もあるが、相性は、意外と控えめに評価しても、良かったりする。

どれほどよいかといえば、互いの部屋に行き来してささやかなお泊まり会を開催するほどの間柄だ。
父親が死してからは、どことなく砕けた印象が強まったラクスが、相乗効果か、ターミナルで顔を合わせるうちに段々と親交を温めていったのだ。
普段はオーブに住居の拠点があるラクスではあるが、ターミナルの最高責任者として宇宙へ上がる頻度はかなり高く、居住区で部屋も近い彼女らは姉妹のように仲睦まじい。
その信頼の置けるヒルダは、第一世代である。
なんからの対処法は承知していることであろうと思い、お泊り会において、勇気を出して相談を持ちかけたラクスであったが、言い終えるやいなや、ヒルダは物凄く怖い形相で青筋を立て、「明日の朝でいいですか、考えを纏めます」などと早口に口走ると、とっととベッドにもぐりこんでしまった。気を損ねてしまった理由も分からず、とりあえずラクスも隣のベッドにもぐりこんで一日を終える他なかった。

翌朝、朝方にヒルダが起床し、あまりに唐突に、しかも無表情で淡々と説明するので、ラクスは姉の変わりぶりにかなり躊躇したものの、その日が終わった後はすっかり元通りの優しいヒルダであったので、今はすっかり安心している。

ヒルダはヒルダで、たまったものではなかった。可愛らしく頬を染めて、妹のように可愛がる女の子が何をいうかと思いきや、「妊娠しない、何か良い方法はありませんか」だ。あまりの相談内容に、思わず、ヒルダは卒倒しそうになった。

前大戦でもクライン派として参加していたヒルダは、キラ・ヤマトというエースパイロットの名はラクスとも今ほど出ないにしても親睦があったために小耳に挟んでいた。
その後恋仲になったのだとは、薄々、ラクスの会話内容から感づいていたのだが…実際に現実を突き出されると大人気なく「別れろやめろ」と喚きたい衝動に駆られた。
姉としても変な虫がつくのは嫌な気分にさせられたが、それだけではなかった。無意識の『ラクス・クライン』が俗世と交わるようで最も嫌悪したのだ。
ラクスの、他を魅了する慈愛の微笑みと穏やかな気性、プラントで『ピンクの妖精』などと比喩されていた通りの、コーディネーターでも比類なき、優しげな美貌。
そこにあるだけで燦然と光るカリスマ性は彼女を、俗世とは神聖不可侵であり、高潔なものとしていた。
彼女は万人の上にたつ器量のある英雄、孤高の人でなければならないとの身勝手な思いすら、当人は気がついていないものの心ひそかに、抱いており、また彼女だけではなく、おそらくクライン派、世間の認識ともさほど差異はないであろう。

無論、少女らしく可愛らしい一面も、意外とぼけっとした抜けた人物であるとヒルダは承知していたし、親しみを覚える所以でもあったが、…だが、それでも「手を出した」事実は容易には許容できそうにもなかったのだ。







「はぁ、はっ………は、は、は……」
ぽたぽたと首辺りに、汗が落ちてくる。
ギシリと木製ベッドが軋むと同時に、脱力したキラが荒い息のまま仰向けになり、同様息を弾ませるラクスの肢体上へと崩れ落ちてくる。

湿った肌同士が触れ合う感触は、本来愉快ではないが、不思議と手を繋ぐ行為と、こういった状況下においてはなぜか不愉快に感じないのが不思議だ。全体重をかけられているのに、さほど苦しくもないのは、私のあまり頭が働いていないからだろう。
余韻が覚めやらぬラクスは、今だ体を微弱、ぴくぴくと痙攣させながらも、ちらりと横目で肩辺りをうかがった。
キラの亜麻色の髪が上下している。そこから下へ浅黒い首、男性らしくそれなりに幅を持った背中へと視線を滑らせるも、仰向けに限定される体勢からでは、それ以上は見ることが適わない。
動かない思考を、天井へと向ける。ベッドサイドに淡く灯ったオレンジ色の光が天井の凹凸の陰影を浮き上がらせ、いつもは平らにみえる天井が、実はウレタン性であることを、いつもこの時分だけ思い出してはまた日常、忘れていくのが常であった。
どうでもいいことなのだが、幸せな時間こそがなぜか、分別ミスか案外どうでもいい部類に放り込まれてしまう。不思議なものだ。
世界はこれほど不思議だらけなのだから、私がここにいて、キラに抱かれているこの状況はやっぱり不思議なことに該当するのであろうか。

「ラク…ス…また、ロクでもないこと、考えてるでしょ…」
ラクスの肩に顔を埋めて、熱い吐息を吐いていたキラが、先ほどよりかは多めに酸素を食らいながら顔をこちらに傾けて、意地悪げに微笑んだ。
細面に玉の汗を光らせ、胸を激しく上下させているラクスと目を合わせる。
「そんな、…っ…ぅ…はぁ……こと…」
ラクスはまだキラほど呼吸は整ってはおらず、反論も途切れ途切れにしか告げず地団駄を踏む。
「うーそ…。君からそう感じてるよ………どうせ嘘ついてもバレるってのになんでつくの」
「わたしはぁ…、はぁ、元々、嘘つきさ…ん……だ…から…」
ラクスの口調が幼少時代に還っていたので、キラは微笑んだ。
時折、極限までホワイトアウトした彼女は、地をころりと覗かせてしまうのである。
眉間の皺を寄らせながら、ラクスは、キラの体力は底なしかと不公平さを呪った。
「別に嘘つきさんでもいいけど。それも、まあ…可愛いし」
もう完全に普段通りだ。その証拠に、今だ汗は大量に流しながらも、ラクスにかかる体重は気遣いをみせてふいに軽減されている。
体勢は今だラクスに覆いかぶさったままではあるが、上体を少し上げ、ラクスの頭部を挟むようにしてベッドに両肘を沈ませて、上手く体重を逃がしている。
ラクスが見上げると、優しく細められた紫の瞳と鉢合わせた。
キラは汗で濡れた肌に情事の余韻冷めやらぬ妖艶な表情で笑みをはえると、ラクスの湿った前髪をかきあげ、形の良い唇で額に軽く口付けた。
「キラは、いつも、私の我侭も嘘も、知りながらなんでも聞いてくれるのね…」
ラクスは苦笑して、キラの首に腕を回し、軽くキスを返した。声を立てて笑うキラ。
「そんなこともないよ。ただ、ラクスの場合は、あんまり自分の為じゃなくて他人を思いやっての我侭だから、うん、我侭って…いわないかも」
「…そうかしら?」
用事を終えた細い腕が解かれ、キラの肩上を通り過ぎたところでラクスは手首を掴まれてしまい、再びキラに彼女の腕を回しなおされてしまう。
無言のうちに「だめ」と脅迫して、にっこり笑うキラは、英雄というより、むしろ悪役といった風情だとラクスは思う。
「そう。もっと甘えてほしいくらいだよ、むしろ…」
言い終わらないうちに、キラは再び沈み、ぬめりけのあるざらりとした温度で首筋をなぞる。ラクスは過敏に体を跳ねさせた。
「ん、もう…明日、またプラントから召喚状がきてるんです……仲介の件で……だから」
「いいじゃん。今日はまだ休暇なんだからさ……と」
「…?」
一旦、キラは停止して、喉の渇きを感じていたことを思い出し、これからに備えて潤しておこうと、ベッドサイド近くのテーブルに腕を伸ばすも、何度も空間を掻くばかり。

怪訝な顔で手元を見やると、持ってきていたはずのミネラルウォーターが今日に限って、準備不備であったらしく目当てのものがそこにはなかった。
「ちっ……水忘れたか……」
舌打ちして、呻きキラはぐちゃぐちゃと頭を苛立たしく掻き回す。
「ごめん、取ってくる……なんだよ折角……いけそうだったのに……」
「………キラ」
低い声で名を呼ぶラクスを完全無視して、ぶつぶつと悪態をつきながらキラは「ごめんね」と身勝手に謝罪すると、体を起こして床に脚を着地させる。
その際、ずるりと胎内を抜ける感覚に、ラクスは瞬間苦しげな顔をしたが、キラは気が付かない。
全裸のまま、ぺたぺたとと足早に部屋に備え付けられた小さな冷蔵庫へ向かい、ミネラルウォーターを物色するキラを、ようやく落ち着いたラクスが体を起こして、ぼうっと見つめていると、しばらくして秀麗な顔に苦悶の色をみせた。
「…っ」
生々しく逆流してくる自分と彼の欲の感触が、気持ち悪い。
どうしようもないので、あえてラクスはひとまず無視すると、今だがさこそと手を伸ばして、冷蔵庫のささやかな光に照らされるキラに思いをはせた。
夜のキラは、真昼とまったく同じ風貌であるはずなのにどことなく別人のような気さえしてしまう。晒された筋肉質な体は、かつて可愛らしいとも称された風貌ながらも、今は全身から男の匂いを放っていた。けれど、やはり、笑った顔も声もキラそのもので、当たり前なのだけれど異様に緊張してしまう時も未だにある。

「ラクスも、水いるー?」
「ええ。お願いします」
頷いて、彼女はテーブル上に一つある私物を確認した。今日も忘れていない、とほっとすると、途端に、毎度毎度の罪悪感が押し寄せ、苦しげな表情で眼を伏せる。

キラは第一世代、ラクスは第二世代。
第二世代同士の出生率は低下しているものの、それ以外の組み合わせでの妊娠はコーディネーターにおいても可能である。
しかも、キラの肉体は、コーディネーターの不安要素を取り除いた、正にコーディネーターの極限の夢の具現化。研究者たちの理想である『完全なるコーディーネーター』、設計図通りに誕生した初めての成功体だ。どの程度まで生殖能力が向上しているのかは不明だが、最大の不安要素といえば、やはりそれ一点である。
キラはラクスとの情事の際、あまり彼女自身意識が明瞭でないために記憶にないのだが……避妊をしたりしなかったりしていた気もするので、少し気になったラクスは自ら、キラに、もしやコーディネーター同士は妊娠しないという概念を信じきっているのだろうかと訊ねてみたこともある。
対してのキラの返答は、否であり、どうやら正しい知識は身に着けていたようであって、知らないわけがないだろ、と逆に怒られてしまった。
そして続いてキラは、「どっちでもいいよ。僕はできても嬉しいし、でも状況を考えて今は避妊してるだけ」と言った。
毅然とした彼の表情は明るく、ラクスに気遣って嘘をついているようでもなかった。
そういえば再び戦争が開始されてから、意図的に彼が気をつけてはいたような気もする…。
今までこれほど重要なことに女性であるラクスがこれほど無頓着でいられたのは、偏に行為自体が、ラクスにとって妊娠の心配を必要としなかったからであった。
ラクスは、それをキラには―――――……


「はい。水」
意識を現実に戻して、ラクスはミネラルウォーターのボトルを受け取った。
「ありがとう。キラ」
「ん」
ちょっと頷いて、キラはベッドに腰掛ると、一応羞恥心というか気分的なもので、今更ながらシーツを無造作に下半身へひっかける。
ラクスは、キラが持っていった大きなシーツ端を胸元に引き寄せて、テーブル上からいつも常備しているピルケースを引き寄せて、取り出した錠剤を水で服用した。

こちらを丁度向いていたらしく、目に留めてきょとんとするキラ。
「ラクス、いつもそれ飲んでるよね…」
「ふふ。気づかれていたんですか?」
「なんなの?ずっと気になってたんだ」
ラクスはさすがに、何かが弾け飛びそうになり、動揺から声が上ずりかけたが、ぐっと堪えて、沈みかけた声を一気に勝気な意気にすり替え、キラに気取られる前に思いの拡散を図った。
キラは世界の誰よりも『ラクス』を過敏に共有しすぎる人物であるから、嘘をつくときはとても怖い。
「…それは、女の子の秘密ですわ!私だって、色々大変なんですよ?」
「なに、美容ものなの?……んなことしなくても、ラクスは綺麗なのに…」
上手く勘違いしてくれたらしい。淡く安堵しつつ、相変わらずの恥ずかしい言葉にラクスは本心を沈めて嘆息する。
「…相変わらずさらっと言いますわね……」
「ん?…あぁ。だって、本当のことでしょ」
「……………肯定も否定も、私にはできませんわ。自画自賛できるほど、私は自分に自信がありませんもの」
「多分、世界一嫌味なこと言ってると思うよ。ラクス」
「どうでしょう?キラの価値観は、あまり客観的ではない気がしますもの」

言葉で戯れながら、ラクスは手内のピルケースをそっと握り締める。
彼は気がついていないが、ラクスが常備しているのはサプリメントなどではない。
まだ人類の遺伝子に区分がつけられなかったころ、起こった社会不安期に風紀が乱れ、中絶が多発した。その中絶率を抑えるために技術革新の波にのって、数々の副作用の改善重ね、開発された―――――プリベンというピルの最終発展系である、24時間以内に服用すれば99%もの避妊が実証された避妊薬であった。

ある程度クライン派の顔が利き、信頼のおける医師が開院する病院をヒルダを介して紹介してもらい、ヒルダ以外には隠してラクスは度々通院している。
ラクスが初体験以降、避妊薬であるピルを服用していることをキラには伝えていない。なんとなく、言いそびれているのであった。
しかし、そうであるからといってどうということはないだろう。
戦時中は事態が事態だけにキラの判断は、ラクスの行動となんら意味を画しておらず、また年齢的にいっても子をもうけることは早計であろう。
もし、万が一妊娠してしまったとする。そうなると、やはり社会的にもキラには責任が発生する。キラとラクスに関していえば、その点のみを限定すれば既に同居していることもあり、さして問題はないのだが、おそらくはそこまで事態が発展すれば結婚にまで話が至ってしまうのは、もはや時間の問題であろう。
若いラクスには、クライン派云々がなければ結婚になど正直考えが至らなかったであろうし、ラクスの事情を何も知らぬキラも、将来的な展望においてはともかく、現状では結婚など露ほどにも考えていないだろう。
クライン派云々の事情が無くとも、結果的には妊娠を否定しておいても、まだよいではないか…。
しかし、ラクスの理性とは裏腹に、本能的な良心はピルケースを明けて服用する度に、罪悪を激しく訴えていた。

ラクスは父から受け継いだクライン派と彼女自身を、世が必要とする限り存続させるべきだと考えている。
自分のあるべき姿、クライン派の旗印として、笑える話ではあるが――――組織の集結を図るには部下にある種の信仰対象となり、ラクスが不用意な選択を控え、彼らにとって信頼されるにたる姿、『ラクス・クライン』を維持することが最善の道である。
そしてなによりも、それはキラを御簾の向こうの世界にまで巻き込まぬことに繋がる。
無益な困難を、被らなくてもよい火の粉を払ってやることが、優しいキラを守るために影で舞うラクスにとっては、最も重要であった。
キラに対してでさえも、数々の責務を纏うラクスにとって予防線を張る対象とならざる得ない。正論を盾とすることで、ラクスはようやく自分の醜悪な行為を容認できた。
逆説的には、そうでもしなければ良心の呵責に、とても耐えられそうになかったのである。


ミネラルウォーターを一口飲んで、キラは微笑んだ。
「僕がラクスのことで、恥ずかしがることなんて何もない。君が君であることを、ただ僕が認めてるだけなんだから」
「私も、キラを認めていますよ?」
「もうとっくに、知ってる」
穏やかな笑顔が、何の打算もない無邪気な好意が、鋭い刃となってラクスを苛む事実を、彼は知らない気づかない。
それでいい、いつまでもそのまま、綺麗なままのキラでいて。優しいあなたのままで、笑っていて。これがキラのためだというならば、私は何にだって耐えられる。
胸中の熱い奔流をかみ殺しながら、ラクスは天使のように純粋な笑みを浮かべて、キラに抱きついた。胸板に顔を埋めて懺悔しながらも、決して許されようとは思わなかったが…もし知られてしまったとき、彼はどんな瞳で私を見つめるだろうか。
蔑み?失望?落胆?
いつかは離れなければならないだろう。でも、身勝手ではあるが、できるだけ長く、長くキラの傍にいたい。ラクスが畏怖するのはただ一つ。
キラに嫌われてしまうかもしれないこと。父をなくしたラクスにとって、それは最大の恐怖でありながらも、何度仮想シュミレートを繰り返しても導き出される回答は、キラが抱くだろうは、ラクスへの嫌悪を示している。
より力を増して、ラクスはキラにだきついた。
「どうしたのラクス?」
子供のようにしがみついて甘えるラクスのメレンゲの髪を梳くと、キラに彼女に対しての際限のない愛しさ広がった。もはや誰よりも大切だと、誰に対してでもそう胸を張って宣言できる。彼女と出会って初めて、これほどまでに人を愛せるものなのだと思い知らされた。
「大好きだよラクス……大好き」